大雪の立ち往生、車内で何が起きるのか — JAFの実測3本と、冬に積んでおく道具

大雪で車が動かなくなったとき、まず心配になるのは寒さと燃料でしょう。ところがJAF(日本自動車連盟)が公開している実測を読むと、雪に埋もれた車の中では寒さより先に、吸っている空気のほうが変わっていきます。しかもその中身は、ガソリン車と電気自動車でまったく違います。
この記事では、JAFのユーザーテスト3本 — 雪に埋もれたガソリン車と電気自動車の車内環境(2021年)、マフラーが雪に覆われたときの一酸化炭素濃度(2015年)、電気自動車で5時間過ごしたときの暖房と電力(2021年) — を並べて、冬に車へ積んでおく物を絞り込みます。
先に結論
- 雪に埋もれたガソリン車は、一酸化炭素濃度が1分24秒で警報値の50ppmに到達。同時に測っていた酸素濃度も13分14秒で安全限界の18%に達し、35分で13.2%まで下がった(2021年・60分間のテスト)
- JAFがこのテストのまとめで挙げた対策は3つ。「ガソリン車は短時間で車内環境が悪化するため、適切な換気やエンジン停止、周囲の除雪が必要である。」
- 別の年に行われた一酸化炭素のテストでは、マフラー周辺を除雪した車では終始ほとんど検知されず、窓を5cmほど開けた車も約40分後には400ppmへ上昇した。窓を少し開ける程度の換気では足りず、雪をどけた車だけが最後まで安全側にいた
- 電気自動車には一酸化炭素中毒の恐れがない代わりに、電力が有限。開始時の外気温-8.1℃で5時間過ごした4台のうち、エアコンを常時稼働させた車は最も快適だったが、いちばん先にバッテリー残量10%で終了している
- 電気毛布だけの車と、シートヒーター+電気フットヒーターの車は、テスト終了時にバッテリーを50%以上残した。ただし乗員はどちらも冷えを訴えており、快適さと残量は逆を向いた
- JAFが2本のテストで挙げている備えは別の物で、除雪用のスコップと防寒具(車内環境のテスト)、毛布と電源ソケットを使う暖房器具(防寒対策のテスト)。合わせて4点になる
雪に埋もれたガソリン車 — 減っていたのは一酸化炭素の逆側だった
2021年2月、JAFは山形県でガソリン車と電気自動車を各1台用意し、こういう状態を作っています。
2台ともエアダクトやマフラーの周辺が見えなくなるよう雪で埋め、さらに車の周囲はドアハンドル付近の高さまで雪で覆った。
エアコンはどちらも内気循環でオートエアコン25℃設定、テストは60分間です。ガソリン車は排気ガスの流入を想定して乗員なしで一酸化炭素濃度と酸素濃度を、電気自動車は運転席に1名が乗って二酸化炭素濃度と体調を観察しました。
ガソリン車の結果は次のとおりです。
一酸化炭素濃度は1分24秒で警報値の50ppmに到達。これは8時間以上その場に滞在すると人体に悪影響を及ぼすレベルとされている。一酸化炭素濃度はそのまま上昇を続け、テスト開始後18~50分の間は測定値上限の300ppmを記録した。一方で、酸素濃度は13分14秒で警報値(安全限界)の18%に到達し、その後も下降し続け、テスト開始後35分で13.2%まで下がった。
このテストが再現しているのは、排気ガスが車内へ入ってくる状況です。JAFはまとめで、対策としてこう書いています。
ガソリン車は短時間で車内環境が悪化するため、適切な換気やエンジン停止、周囲の除雪が必要である。
エンジンを止めること自体が、3つの対策のうちの1つとして挙げられています。掘れば、かけたままでよいという話ではありません。
注目したいのは後半です。一酸化炭素が増えただけでなく、酸素そのものが減っていました。一酸化炭素中毒という言葉からは有毒なガスが入ってくる側だけを想像しがちですが、このテストでは車内の空気が両側から悪くなっています。酸素濃度が下がった理由まではテスト結果に書かれていないため、ここでは測定された事実として押さえておきます。なおJAFは「※60分間のテストによる結果となります。」とも付記しています。
一方、同じ条件で埋めた電気自動車は「二酸化炭素濃度は人体へ影響があるとされる0.1%を超えず、乗員の体調変化も見られなかった。」という結果でした。とはいえJAFは電気自動車を安全とは書いていません。
電気自動車は一見問題なさそうだが、車の周囲が雪で埋もれてしまうとドアが開かずに身動きが取れなくなったり、道路が通行可能になった場合など、すぐに車を動かせなくなったりすることも考えられるため、こまめな除雪は欠かせない。
窓を5cm開ける程度では足りなかった
一酸化炭素そのものを掘り下げたのは、2015年2月に北海道旭川市で行われた別のテストです。同じ車を2台用意してエンジンをかけ、1台はそのまま、もう1台はマフラー周辺を除雪した状態で車内の濃度を計測しています。こちらはエアコンを外気導入に統一しており、先ほどの2021年のテスト(内気循環)とは条件が異なります。雪の被せ方と窓の開け方も、3つのテストに分けられています。
テスト①ではマフラーの高さまで雪で覆い、テスト②ではさらにボンネットの上まで雪を被せた。テスト③では、「窓を5cmほど開ける」状態で行った。いずれのテストも、エアコンは外気導入とし、温度、風量も統一した。
| 条件 | 車内の一酸化炭素濃度(JAFの計測結果) |
|---|---|
| 対策なし | 開始直後から上昇し、16分後に短時間暴露限度の400ppm。その6分後に測定上限の1,000ppmへ |
| マフラー周辺を除雪 | 終始ほとんど検知されなかった |
| 窓を5cmほど開ける | 開始5分で100ppm台。増減を繰り返したのち約40分後に400ppm、その後すぐ800ppm台へ |
※いずれも2015年2月16日のJAFユーザーテストによるもの。JAFが公表しているのは上の3つの結果で、対策なし・除雪ありの数値がテスト①(マフラーの高さまで)とテスト②(ボンネットの上まで)のどちらのものかは区別して示されていません。また、上の2021年のテストとは車両・エアコン設定・計測器の上限値(300ppm/1,000ppm)が異なるため、数値を続けて読むことはできません。400ppmをJAFは短時間暴露限度、50ppmを警報値と、それぞれのテストで別の呼び方をしています。
窓を5cmほど開けても、時間が延びただけで同じ水準まで上がっています。この程度の換気では足りず、雪をどけた車だけが最後まで安全側にいました。JAFはこのとき発煙筒でも確認していて、「マフラーの近くに発煙筒を置いて排ガスの流れ方を確認したところ、車の床下に溜まった排ガスが車内に吸い込まれた」と書いています。付け加えられている一文は、車を閉め切れば安心という感覚を打ち消すものです。
エアコンが内気循環でも、車体の隙間などから排ガスが車内に入る危険性がある。
そしてJAF自身が、除雪した側の結果についても言い切ってはいません。「車の周囲の状況や風向き、エアコンの設定などで変わるため、今回安全だった条件でも危険になる場合があります。」と注意を添えています。
電気自動車は中毒の心配がない代わりに、電力が減っていく
3本目は、電気自動車で立ち往生した場面を想定したテストです。2021年2月、山形県で電気自動車4台にそれぞれ1名が乗り、暖房の使い方だけを変えて5時間車内で過ごしています。実験開始時の外気温は-8.1℃でした。
| 暖房の条件 | 3時間後(PM10:00)の感想 | 5時間後(AM0:00)の感想 |
|---|---|---|
| ①オートエアコン25℃常時稼働 | 快適に過ごせている。 | 最初から最後まで快適だった。 |
| ②電気毛布(電源ソケット使用)のみ | 肌が露出した部分が冷たく感じる。 | 窓ガラスは全体的に凍りついた。電気毛布で体温は保てたが、かからない部分は寒かった。 |
| ③シートヒーターHi+電気フットヒーター | ヒーターと体が接地している部分は温まっている。 | 右足のつま先が冷えてきて、滞在はあと2時間ぐらいが限界。 |
| ④毛布のみ+寒いときだけエアコンON | ヒーターOFF後、30分間は車内が温かいが、その後手足の先から冷えて1時間ほどしか耐えられない。 | エアコンのONとOFFをこまめに切り替えていたが窓ガラスが凍りつき、首から上が冷えた。 |
※感想欄はJAFユーザーテスト(2021年2月17日〜26日)の掲載内容そのままです。JAFも「※車内温度の感じ方には個人差があります。」と付記しています。
JAFはこのあと、乗員が降りたあとの電力も測っています。「AM0:00にモニターが降車した後、AM2:00から測定を再開しAM8:00まで継続した。」という進め方です。
- AM4:30頃、①エアコン常時稼働の車はバッテリー残量が10%となったため終了
- AM8:00の終了時、②電気毛布と③シートヒーター+フットヒーターの車はバッテリーを50%以上残していた。④は25%まで低下
※JAFの原文では「※「バッテリー」は駆動用バッテリーを指します。」と注記されています(12Vの補機バッテリーではなく走行用の電池)。また④は、モニターが降車した0:00以降はオートエアコン25℃設定の常時稼働に切り替えられています。つまり25%という数字は、こまめな切り替えを8時間続けた結果ではありません。各テスト車の車種・電池容量・開始時の残量は公表されていないため、車両そのものの性能差としては比べられません(暖房条件どうしの比較がこのテストの目的です)。
並べると、いちばん快適だった車がいちばん早く終わっています。逆に長く電気が残った②③の乗員は、どちらも体の一部が冷えると訴えていました。暖かさと残量は、同じ方向を向いていません。JAFのまとめも、どれか一つを勧めるのではなく併用に触れています。
寒さの感じ方に個人差はあるが、バッテリーを保ちつつ体への負担を減らすには、今回の暖房使用条件などを上手に併用することが効果的となる。
3本を横に並べると、積む物が絞られる
ここからは当サイトの整理です。3本のテストは別々の年・別々の場所で行われていますが、結論の向きは揃っています。
| 車内で先に問題になるもの | その場でできる手当て | |
|---|---|---|
| ガソリン車 | 一酸化炭素と酸素濃度(1分24秒/13分14秒) | 適切な換気・エンジン停止・周囲の除雪の3つ(JAF)。窓を5cm開ける程度では足りない |
| 電気自動車 | 駆動用バッテリーの残量(暖房の使い方で分かれる) | 電源を使わない・使う量が少ない暖の取り方に切り替える。あわせて「こまめな除雪は欠かせない」(埋まるとドアが開かない) |
エンジンをかけ続ける前提も、電気で暖め続ける前提も、雪の中では長く保ちません。共通して残るのは外の雪をどけることと、車のエネルギーに頼らずに体を温めることの2つです。
興味深いことに、JAFが備えとして挙げている物は、2本のテストで重なっていません。車内環境のテスト(2021年)はこう書いています。
電気自動車、ガソリン車ともに、降雪地域へ行く場合は万が一の状況に対応できるよう、除雪用のスコップや防寒具などを車内に備えておくとよい。
一方、暖房を比べたテスト(2021年)のまとめは別の物を挙げます。
電気自動車で降雪地域に行く場合は、毛布や電源ソケットを使う暖房器具を車内に備えておくとよい。
片方は雪をどける側、もう片方は体を温める側です。どちらか一方では、上の表の片側しか手当てできません。合わせて4点になります。
冬に積んでおく物と、選ぶときの手がかり
| 積む物 | 3本のどこから出てくるか | 選ぶときの手がかり(当サイトの整理) |
|---|---|---|
| 除雪用のスコップ | マフラー周辺を除雪した車だけが終始ほとんど検知されなかった。テストでは車の周囲がドアハンドル付近の高さまで埋まっている | 掘る対象はマフラーの周りと車の周囲。トランクや座席下に常時積んでおける長さで、柄が伸びるものは車内での置き場所を取りにくい |
| 毛布 | 電源を使わずに体を包める装備。電源なしで過ごしたのはテスト車④で、暖房を切ると「その後手足の先から冷えて1時間ほどしか耐えられない」と答えている | 人数分。体の外周を覆える大きさがあるかどうか。毛布だけで待つ前提にはしない(JAFのまとめも併用を勧めている) |
| 電源ソケットを使う暖房(電気毛布・電気フットヒーターなど) | テスト車②(電気毛布)と③(シートヒーター+フットヒーター)が使用し、終了時に駆動用バッテリーを50%以上残した。②の乗員は「かからない部分は寒かった」とも答えている | 消費電力が車のアクセサリーソケットの容量内かを取扱説明書で確認する。体に接する場所を温めるものほど、空調より少ない電力で済む |
| 防寒具 | 車内環境のテストのまとめで、スコップと並べて挙げられている | 雪をどける作業は車外での作業になる。手袋と靴が濡れない構成かどうか |
いずれも高価な装備ではなく、置き場所さえ決めておけば冬の間ずっと積んでおけるものばかりです。逆に、この3本のテストからはエンジンをかけたまま待つ、窓を少し開けて待つ、という2つだけでは足りないことがはっきりしています。
車から電気を取り出す方法そのものについては災害時に車から何ワット取れるのかで、雪の坂を上るための装備はタイヤチェーンの選び方で扱っています。動けなくなったあとに助けを呼ぶ側の手順はロードサービスの使い方にまとめました。
まとめ
大雪の立ち往生は、寒さとの戦いだと思われがちです。しかしJAFの実測では、雪に埋もれたガソリン車の車内で1分24秒のうちに一酸化炭素が警報値へ達し、13分14秒で酸素が安全限界に届いていました。窓を5cm開けても、上がるのが遅くなっただけです。効いたのは、雪をどけた車だけでした。
しかも、閉め切れば防げるという話でもありませんでした。JAFが発煙筒で確かめたところ床下に溜まった排ガスが車内に吸い込まれ、内気循環でも車体の隙間から入る危険性があると書かれています。
電気自動車にはその危険がない代わりに電力の限りがあり、いちばん快適だった暖房の使い方がいちばん早く終わっています。どちらの動力でも、車まかせにできる時間には限りがある — そう考えると、積んでおく物はスコップ・防寒具・毛布・電源ソケットを使う暖房の4点に絞られます。前の2つは雪をどけるため、後の2つは体を温めるためのものです。
※本記事の数値と引用は、JAFユーザーテスト「大雪による車の立ち往生~車内環境の変化~」(2021年2月17日〜26日)、「クルマが雪で埋まった場合、CO中毒に注意」(2015年2月16日)、「大雪による車の立ち往生~危険性と防寒対策を検証~」(2021年2月17日〜26日)によるものです。JAFも注記しているとおり、結果は車種・使用状況・周囲の環境により異なります。実際に立ち往生に遭遇した場合の行動は、そのときの道路管理者や警察の指示に従ってください。









