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コペン vs S660 — 同じ軽オープンで、ダイハツは日常を残し、ホンダは削った

公開: 2026-08-15 / 更新: 2026-08-15

クルマを知るのイメージイラスト

軽自動車の枠で、屋根が開く、2人しか乗れないクルマ。それだけでもう相当に割り切った商品ですが、この狭いジャンルには近年、2台が並んで存在していた時期があります。ダイハツのコペンとホンダのS660です。

2代目コペンの発売が2014年6月19日、S660の発売が2015年4月2日。約9か月違いで世に出た2台は、同じ軽自動車の規格に収まり、同じ2人乗りで、同じように屋根が開きます。ジャンルの説明としては、ほとんど同じ言葉で書けてしまいます。

ところが両社が出した発売時のニュースリリースを並べて読むと、この2台は「楽しい」の定義そのものが正反対でした。しかも興味深いのは、その違いが誰かの評論ではなく、両社が自分の言葉で、それぞれ何を守り何を捨てたかを書いていることです。

この記事では、ダイハツの2002年・2014年のニュースリリース(および添付資料)と、ホンダの2015年の発売リリース、そしてホンダが生産終了時に公開した記録だけを使って、2台の分かれ目をたどります。

ダイハツの出発点は「持つ悦び」だった

先にこのジャンルを開いたのはダイハツです。初代コペンの発売は2002年6月19日。そのニュースリリースは、開発の狙いをこう書いています。

「Copen」は、「ACTIVE TOP COMPACTOPEN」をコンセプトに、誰もが気軽に楽しめる本格的オープン・スポーツカーとして開発。ワクワクするような『持つ悦び』と、クルマを『操る楽しさ』を感じられるスポーツカーとして提案。

注目したいのは、持つ悦びが先に書かれていることです。操る楽しさは、そのあとに並んでいます。所有すること自体が価値だと最初に宣言したうえで、走りの話が来る構成になっています。

この順序は、そのまま設計に出ています。同じリリースは駆動方式について「FFレイアウトを活かしたキャビンフォワード」と書いており、前輪駆動であることを、スタイリングを成立させる条件として説明しています。スポーツカーの定石である後輪駆動を採らなかったことを、弁明ではなく積極的な選択として書いているわけです。

屋根についても同様です。同社は軽自動車で初めて(2002年6月現在・同社の記載)油圧機構を採用した電動開閉式ルーフ「アクティブトップ」を採用し、「簡単操作でスピーディなルーフ開閉を実現」と記しています。開けるための操作を、人の手から機械に移したということです。

210リットルという、この記事で一番重要な数字

そして初代コペンのリリースには、このジャンルではやや意外な項目が独立した見出しで立っています。パッケージング&ユーティリティの節です。

210リットル*の容量(ルーフクローズ時)のトランクルームと、豊富な収納スペースを確保、日常ユースに十分に応える収納性を実現

日常ユースに十分に応える。2人しか乗れない屋根の開くスポーツカーの発売資料に、ダイハツは荷物の話を書き込みました。これが後述するホンダとの最大の対比になります。

2014年、ダイハツは着せ替えに賭けた

2代目コペンは2014年6月19日発売。ダイハツはこのフルモデルチェンジを「感動の走行性能」と「自分らしさを表現できるクルマ」の2本立てで説明しています。そして後者のために、かなり思い切った構造を持ち込みました。

ひとつが新骨格構造のD-Frameで、同社は「骨格のみでスポーツカーに求められる高い剛性を確保」と書いています。外板に剛性を頼らない骨格にした、ということです。

その骨格の上に載るのが、内外装着脱構造のDRESS-FORMATIONです。ダイハツの説明はこうです。

内外装着脱構造「DRESS-FORMATION」は、外板を13個の樹脂パーツの集合体と捉え、クルマは購入後のデザイン変更が難しいという固定概念を覆し、購入後でもお客様の嗜好に合わせたデザイン変更を可能にした

外板は13枚の樹脂パーツで、買ったあとに姿を変えられる。車名のグレード名にもそれが表れていて、同社は「コペン ローブ」の名の由来を「骨格に樹脂外板をローブ(衣服・衣装・服装などのフランス語)のように着る事を表現」と注記しています。クルマが服を着るという比喩を、メーカー自身が公式資料の脚注に書いたわけです。

力の入れどころは工場と店にも及びました。同社は生産拠点として「コペンファクトリー」を新設し、オーナーの見学を可能にして「お客様に身近で親しみある開かれた工場を目指す」と書いています。販売側では認定ショップ「コペンサイト」に認定スタッフ「コペンスタイリスト」を常駐させ、鎌倉にはメーカー直営拠点「ローカルベース」を開設しました。国内の月販目標台数は700台です。

名前の由来が、世代で入れ替わっている

ここで、2つのリリースを並べたときにだけ見える事実があります。COPENという名前の由来の説明が、初代と2代目で変わっているのです。

2002年の初代のリリースは、こう注記しています。

Copen… Compact Open carの略。CoupeとOpenの両方の良さをあわせ持つクルマ

2014年の2代目のリリースの注記は、こうです。

Community of OPEN car life の略語

初代の由来はクルマの形の説明でした。小さくて、屋根が開いて、クーペとオープンの良さを併せ持つ。2代目の由来は人の集まりの説明に変わっています。コミュニティという語が入り、クルマ単体ではなくオープンカーのある生活そのものを指す名前になりました。

着せ替えの構造、見学できる工場、認定ショップ、鎌倉の直営拠点。2代目コペンでダイハツが増やしたものを並べると、この由来の変更が言葉遊びではなかったことが分かります。ダイハツが売ろうとしたのは、走行性能というより、そのクルマを持ち続ける時間のほうでした。

2015年、ホンダは「曲がる楽しさ」だけを見た

その9か月後、ホンダがS660を発表します(発表2015年3月30日、発売4月2日)。開発のキーワードとして掲げられたのはHeart Beat Sportで、リリースは「見て楽しい、乗って楽しい、あらゆる場面でいつでもワクワクする、心が昂ぶる本格スポーツカーを追求し」と書き起こしています。

そして中核の一文が、これです。

スポーツカーの醍醐味である、曲がる楽しさを最大限に体感できるよう、高い旋回性能にこだわり、ミッドシップエンジン・リアドライブ(MR)レイアウトを採用。低重心と理想的な前後重量配分である45:55を実現しました。

ここには目的と手段の順序がはっきり書かれています。目的は曲がる楽しさ、そのための手段がMRレイアウトと45対55の重量配分。座席の後ろにエンジンを置くという、居住性にも積載性にも不利な配置を、旋回性能のために選んだと明言しています。

変速機も同じ方向です。ホンダは軽自動車として初となる(同社調べ・2015年3月現在)6速マニュアルトランスミッションを新開発して搭載しました。「エンジンパワーを最大限に活用すべくワイドレンジ&クロスレシオに設定した」と説明されています。あわせてスポーツモード付きの7速パドルシフト付CVTも設定し、「幅広い層のお客様に楽しさを実感していただけるラインアップ」としています。

運転席まわりの記述は、ほとんど運転姿勢の話に費やされています。同社は「まるでゴーカートに乗っているようなドライビングポジションを実現」と書き、ステアリングホイールはホンダの市販車としては最小径となる直径350mmを採用したと記しています。電子制御でも、軽自動車として初(同社調べ)の「アジャイルハンドリングアシスト」を投入し、「コーナリング時に狙ったラインをトレースしやすく」することを狙ったと説明しています。

屋根は、機械ではなく人の手に戻された

屋根の扱いは、コペンとちょうど逆でした。S660のリリースはこう書いています。

オープンで風を切って走る楽しさを気軽に味わっていただくため、操作が容易にできる軽量な脱着式ソフトトップ「ロールトップ」を採用しました。

ダイハツが軽初の油圧式電動ルーフで開ける手間をなくしたのに対し、ホンダは手で外して丸めるソフトトップを選び、その理由として軽量を挙げています。屋根について両社が使った語も対照的で、ダイハツは操作そのものを「簡単操作でスピーディなルーフ開閉を実現」と書き、ホンダは重さのほうを軽量と書きました。同じ「屋根が開く」を、一方は機械にやらせ、もう一方は人にやらせたわけです。

ホンダのリリースが一度も書かなかった言葉

ここまでは、両社が書いたことの比較です。最後に、書かなかったことを見ます。

S660の発売リリース全文を対象に語を数えると、次のようになります。

  • 荷室 … 0回
  • トランク … 0回
  • 収納 … 0回

ボディカラー6色の一覧も、シート表皮の組み合わせも、エアバッグの種類も、ブローオフバルブの音のチューニングまで書かれている資料に、荷物をどこに置くかの記述が一行もありません。一方、初代コペンのリリースには前述のとおり「210リットル*の容量(ルーフクローズ時)のトランクルーム」と「日常ユースに十分に応える収納性を実現」が、独立した項目として書かれています。

これは資料の分量や書き手の癖の問題ではなく、そのクルマで何を約束するかの違いだと読めます。ダイハツは日常の使い勝手を約束項目に入れ、ホンダは入れませんでした。屋根を電動にするか手で外すか、前輪で駆動するか後輪で駆動するかという選択も、この一点から一直線に説明がつきます。

価格も並べておきます。2代目コペン ローブは1,798,200円(CVT)/1,819,800円(MT)、S660は1,980,000円(β)/2,180,000円(α)です。どちらも各社が消費税8%込みとして示した金額で(当時の消費税率は8%)、保険料・登録などの費用とリサイクル料金は別途と注記されています。同じ基準の数字なので比較でき、入り口でおよそ18万円、ホンダのほうが高い位置にありました。2人乗りで屋根が開くという条件は同じまま、より高い価格帯に、荷物の置き場所を約束しないクルマを置いたということです。

作り方まで正反対だった

2台の違いは、工場にも出ています。

ダイハツは前述のとおり、オーナーが見学できる「コペンファクトリー」を新設しました。作っているところを見せる方向です。

ホンダはどうだったか。発表と同じ2015年3月30日、ホンダはもう1本、納期についてのお知らせを出しています。そこにはこう書かれています。

S660は、スポーツカーにふさわしい走りと質感を実現するため、人の手と機械を融合させた専用工程を取り入れた少量生産技術での生産を行っており、生産台数が限られています。

発表当日に、注文が集中して納期が延びる見込みだと告知する事態になったわけです。この少量生産が実際どういうものだったかは、生産終了時にホンダが公開した記録で、作った側の言葉として残っています。製造を担当したホンダオートボディーの社長は、こう振り返っています。

正直申し上げまして、S660はこだわりが強い商品なので生産という観点においては大変苦労しましたが、従業員のモチベーションが上がりました。ほとんどが手づくりなので、我々の技能の向上に繋がりましたし、今後の機種の生産に活きると思っています。

S660は2022年3月25日に最終ラインオフを迎え、7年間で累計38,916台で生産を終えました。初代開発責任者の椋本陵は、開発チームに「一線入魂」という言葉があったと明かしています。設計図に引く線の一本一本に妥協なく意思を入れる、という意味だと説明されています。

ホンダが軽自動車の枠で高回転のスポーツを作るのは、これが最初ではありません。1963年の参入時、最初の四輪車を8,500回転まで回る軽トラックにした経緯はホンダT360と四輪進出の物語で扱っています。

2026年8月現在、残っているのはどちらか

S660は2022年3月に生産を終えました。コペンは2026年8月時点でもダイハツの現行ラインアップに掲載されています。

この結果だけを見て、日常の使い勝手を残した側が正しかった、と結論するのは早すぎます。両社が置いた狙いも規模も違い、月販目標700台のクルマと、発表当日に納期の告知を出すことになったクルマを、同じ物差しで測ることはできません。

それでも、2台が残したものははっきりしています。ダイハツは、屋根の開くクルマを持ち続ける時間のほうを設計した。骨格だけで剛性を確保し、外板を13枚に分け、工場を開き、名前の由来までコミュニティに書き換えました。ホンダは、曲がる瞬間だけを設計した。座席の後ろにエンジンを置き、45対55に配分し、軽自動車で初めて(同社調べ)6速マニュアルを載せ、屋根を手で外させ、荷物の話を一度も書きませんでした。

同じ規格、同じ2座、同じ開く屋根から、ここまで違うものが出てくる。軽自動車という枠は制約の代名詞のように語られますが、制約が同じでも、何を諦めるかは各社の自由だったということです。同じことは軽トラックでも起きていて、キャリイとハイゼットが正反対の定義から出発した経緯はキャリイ vs ハイゼットの比較で読み解いています。軽自動車の規格そのものがどう変わってきたかは軽自動車規格の歴史に、実用性を最低限まで削ったオープン2シーターという考え方の系譜はマツダ ロードスターと人馬一体の物語にまとめています。

出典・注記: 本記事の事実関係は、ダイハツ工業のニュースリリース「ダイハツ新型軽オープン・スポーツカー「Copen(コペン)」新発売」(2002年6月19日)、同「ダイハツ 軽オープンスポーツカー「コペン」をフルモデルチェンジ」(2014年6月19日・添付PDFを含む)、本田技研工業のニュースリリース「新型オープンスポーツ「S660(エスロクロクマル)」を発売」(2015年3月30日)、同「「S660(エスロクロクマル)」納期について」(2015年3月30日)、およびホンダの車種アーカイブ内のページ「S660 History」(2022年3月現在の記載)に基づきます。「軽自動車として初」にあたる記載は各社が自社調べとして示したもので、コペンの電動開閉式ルーフは2002年6月現在、S660の6速マニュアルトランスミッションとアジャイルハンドリングアシストは2015年3月現在の同社の記載です。価格はコペン・S660とも各社が消費税8%込みとして示した金額で、保険料・登録などに伴う費用とリサイクル料金は含みません。S660のリリースにおける語の出現回数は、同リリース本文を対象に本サイトが数えたものです。累計生産台数38,916台と最終ラインオフ日はホンダの記載によります。コペンが現行ラインアップにあることは2026年8月15日にダイハツの車種一覧ページで確認しました。

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