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なぜカーナビは衛星3機では位置を出せないのか? — 「準」天頂の由来と、cm級で測れても公道では補助になる理由

公開: 2026-08-18 / 更新: 2026-08-18

クルマを知るのイメージイラスト

高架下を走ったあと、カーナビの自車位置が隣の道路に乗っていた。トンネルを抜けた瞬間、地図が追いついてきた。ビルの谷間で、実際より数十メートル手前に自分がいることになっていた。カーナビを使っていれば、たいてい経験のある現象です。

これを、衛星の電波が届かなかったからだと説明すると、半分は当たっています。ただし残りの半分は、もっと面白い事情です。衛星測位は位置を受け取る仕組みではなく、位置を計算する仕組みで、その計算には衛星が3機では足りません。しかも4機目が必要な理由は、衛星の側ではなく車に載っている受信機の時計にあります。

2026年8月11日、日本の衛星測位システム「みちびき」の7号機がH3ロケット9号機で打ち上げられました。この機会に、カーナビの現在地がどう決まっているのかを、内閣府の公式資料から読み解きます。

先に結論

  • 衛星は位置を教えてくれない。受信機が距離から計算している(内閣府の解説記事が、この誤解を名指しで訂正しています)
  • 3機で足りないのは、受信機の時計が正確ではないから。4機目は位置ではなく、時計のずれを解くために要る
  • 日本の街で位置が乱れる原因のひとつは、山やビルに反射した電波(マルチパス)。だから真上に近い衛星が効く
  • ところが真上に衛星を静止させることはできない。だから8の字を描いて交代する。「準」天頂という名前は、真上に留まり続けられないことに由来する
  • 補強信号を使えば誤差数cmまで測れる。それでも内閣府は、公道の運転では他のセンサーと組み合わせた「補助的な扱い」と書いている。理由は精度ではなく十数秒のタイムラグ

衛星は位置を教えてくれない — 測っているのは時間

内閣府のみちびき公式サイトには「衛星測位入門」という解説記事があり、東京海洋大学大学院の久保信明准教授の監修で書かれています。その第3回は、多くの人が持っている誤解を最初に片づけます。

衛星測位においては、「衛星からの位置情報で...」といった表現がよく用いられるため、「カーナビやスマホが、衛星から位置を教えてもらう」と思っている方が多いかもしれません。実際には衛星からの情報をもとに計算で位置を求めているのです。

計算に使うのは距離です。そして距離は、電波が届くのにかかった時間から求めます。

衛星から自分の位置までの電波が伝わるのにかかった時間を計り、これに電波の速度(秒速30万km)を掛け算すれば、この距離を求めることができます。

3か所からの距離が分かれば、平面でも空間でも位置は決まります。これは地図の上でコンパスを3回描くのと同じ理屈です。ところが、実際に衛星3機でやってみると位置が決まりません。同記事は、その原因を時計に求めます。

4機目は「位置」ではなく「時計」のために要る

電波の速さは、距離の測定にとって残酷なほど速い数字です。

電波の速度は秒速30万km、1億分の1秒で3m進むほどの速さです。

送信側の時刻は正確に分かります。衛星には原子時計が積まれていて、同記事によれば出発時刻は10億分の1秒の精度で測れます。問題は受け取る側です。

オリンピックやカーレースで使われる高精度時計であっても10万分の1秒の精度と言われています。到達時刻の計測に10万分の1秒の誤差があった場合、測位結果に3kmの誤差が生じてしまいます。

3kmずれるカーナビは使い物になりません。かといって、原子時計を車に積むわけにもいきません。つまり受信機の時計は必ずずれていて、そのずれはすべての衛星までの距離に、同じ大きさの誤差として現れます。同記事の表現では次のようになります。

それぞれの距離に「(自分の時計誤差)×秒速30万km=距離誤差X」の誤差が生じていました。

そして、こう結ばれます。

そのため衛星3機では測位ができなかったのです。

ここからが解決編です。未知数は自分の位置(緯度・経度・高さの3つ)と、この距離誤差Xの合計4つ。式が3本では解けませんが、4本あれば解けます。第4回の記事は、これをロープと結び目の宝探しに例えて説明しています。ロープを3本にすると結び目が動いてしまって位置が定まらず、4本目を足すと1か所で全部がぴんと張った、という筋書きです。

つまり4機目の衛星は、位置を精密にするためではなく、受信機の安い時計を補正するために要るということです。カーナビが「衛星を捕捉中」と表示している間に待っているのは、実は自分の時計を直してくれる4機目でもあります。

日本の道路で位置が乱れる理由 — 届かないのではなく、回り道して届く

受信できる衛星が4機に満たなければ位置は出ません。ただし誤差の原因はそれだけではなく、公式サイトの「衛星測位サービス」のページは測定誤差のうち最も大きな部分を占めるのは電離圏による電波遅延だと書いています(電離圏は上空100〜1000km付近にある電気を帯びた大気の層で、通過する電波が遅くなります)。そのうえで、街なかで自車位置が乱れる原因として、もうひとつやっかいなものが挙げられています。反射です。

マルチパスとは、電波がまっすぐに届くだけでなく、山やビルなどに反射して、複数のルートで伝播することです。反射した電波は、受信機に到達するまでに時間がかかることから「距離が遠い」と計測されるため、衛星測位においては、正確な測位を乱す要因です。

電波が届かないなら、受信機は「測れない」と分かります。ところが反射して回り道した電波は届いてしまうので、受信機は遠回りした分だけ長い距離を正しい値として計算に入れてしまいます。ビル街で自車位置が隣の道にずれるのは、多くの場合こちらの問題です。

ここで効くのが、衛星がどれだけ高い位置にあるか(仰角)です。

高仰角から発信される測位衛星の電波は、反射波が遠くまで届かないことからマルチパスが起きにくく、全体の測位誤差を改善することができます。

ただし、高い衛星だけあればよいわけではないところが面白い点です。同じページは、衛星の配置バランスの度合いをDOP(Dilution of Precision)と呼び、水平位置については低仰角の衛星が含まれると良くなることが知られていると書いています。高い衛星は反射に強く、低い衛星は水平方向の精度に効く。結局、数が要るという結論になります。

そして日本の事情として、同サイトはこう説明しています。

GPS衛星は都市部や山間部ではビルや樹木などに電波が遮られて可視衛星数が減り、位置情報が安定的に得られないことがありました

真上に静止できないから「準」天頂

それなら日本の真上に衛星を置けばいい、と考えたくなります。実際、内閣府もそう書いたうえで、できない理由を続けています。

常に日本上空(日本国内の地上から見た天頂付近)に衛星を静止させることができれば理想的ですが、地球の引力と遠心力の方向が違うため、静止させることはできません。

静止衛星は赤道の上空にしか置けません。赤道から離れた日本の真上に静止しようとすると、地球の引力と遠心力が釣り合う面から外れてしまうからです。そこで採られたのが、静止軌道を南北に振った軌道を非対称にゆがめる方法でした。

みちびきの準天頂軌道は、南北非対称の「8の字軌道」になり、北半球に約13時間、南半球に約11時間留まり、日本付近に長く留まります。

1機あたりの滞空時間は、東京付近から見た数字で示されています。

東京付近から1機の準天頂軌道の衛星を見た場合、仰角70度以上には8時間、仰角50度以上には12時間、仰角20度以上では16時間留まります。

ほぼ真上(仰角70度以上)にいられるのは8時間で、3機あれば24時間になる計算です(この割り算は当サイトによる補足です)。実際、同ページはみちびきが4機体制の時、準天頂軌道には3機の衛星が配置されていますと書いており、その3機についてこう説明します。

3機が8時間ごとに順番に現れますから、少なくとも1機以上の衛星が仰角70度以上の「ほぼ」天頂付近に位置することになりますが、完全な天頂(真上)の位置にずっと留まっているわけではありません。 「準」天頂衛星システムの名称は、このことに由来しています。

真上に留まり続けられないという制約そのものが、システムの名前になっているわけです。技術の名前がたいてい達成した性能から付けられることを考えると、これは珍しい命名です。

もうひとつ、カーナビにとって重要なのは、みちびきがGPSと同じ形式の信号を送っていることです。内閣府は、GPS衛星と高い互換性を持ち一体で利用できるのは日本のみちびきだけであり、両方を1つの衛星群として扱うことができると説明し、その意味をこう書いています。

つまり、単純にGPS衛星の数が増えることと同じなのです。

受信機から見れば、みちびきは日本の上空に増えたGPS衛星として扱えます。専用の対応をしなくても、可視衛星数が増えた効果が得られるという設計です。

誤差を減らす3階建て — そして車での位置づけ

みちびきが送っているのは測位信号だけではありません。誤差を減らすための補強信号も送っています。公式サイトの説明を、精度と車での想定用途で並べると次のようになります。

サービス精度(公式の記載)受信の条件自動車での位置づけ(公式の記載)
衛星測位サービス(単独測位)1周波では誤差10m程度とされる※一般的なGPS受信機で利用可自動車についての記載なし
サブメータ級測位補強(L1S)誤差1mL1S信号を受信できる端末自動車では他のセンサーとの組み合わせが望ましい
センチメータ級測位補強(L6D)誤差数cm専用受信機。アンテナ・受信機は大きくなる公道の運転では補助的な扱い

注目したいのは右の列です。誤差1mのサブメータ級について、内閣府はこう書いています。

このサービスは、主に歩行者・自転車や船舶などのタイムラグの影響を受けにくい利用者を想定しており、自動車で利用する場合には、他のセンサーと組み合わせて利用することが望ましく、ドライブレコーダーのように精度のよい位置情報を記録する場合にも用いることができます。

誤差1mまで詰めても、車では単独で使うものとは書かれていません。走っている車は速いからです。時速60kmは秒速約17mで、1秒の遅れは17mのずれになります。ドライブレコーダーは走行中に記録し、後から見返すものです。位置情報の精度を上げる用途がここに挙げられているのは、記録が後から効く道具だからでしょう(事故が起きたときに何を保存するかは交通事故を起こした・もらったときの対応にまとめています)。

数cmで測れるのに、公道では「補助的」

さらに精度の高いセンチメータ級補強は、国土地理院が全国に整備している電子基準点のデータをもとに補正情報を作り、みちびきから送信するものです。誤差は数cm。舗装の白線の幅より小さい値です。ところが公式サイトは、その直後に制約を書いています。

なお、衛星を経由するため、補強情報を作成してから送信するまでの間には十数秒のタイムラグがあるため、急な電離層擾乱などの際には、補正が間に合わずに測位結果が乱れる可能性があります。

そして車載での使い方について、こう結論づけています。

公道における運転に利用する場合には、他のセンサーと組み合わせ、補助的な扱いになると考えています。

ここがこの記事でいちばん面白い部分だと思います。限られた範囲をゆっくり動くもの、あるいは止まっているものを測るなら数cmで測れる。しかし公道を走る車にとっての壁は、細かさではなく間に合うかどうかだという整理です。工事現場の建設機械や農地の農機(同サイトが想定用途として挙げているもの)は、限られた領域の中をゆっくり動きます。公道の車はそうではありません。

だから車の測位は、衛星だけに任せる設計にはなっていません。内閣府の文章が繰り返し書いている「他のセンサーと組み合わせ」は、車がすでにやっていることでもあります。スバル アイサイトの物語で触れたアイサイトXが、衛星測位に高精度地図データを組み合わせているのも同じ発想です。センサーを1つだけ信じない、という考え方です。

2026年8月11日、7号機 — 4機以上を「常に」にする

2026年8月11日、H3ロケット9号機によってみちびき7号機が打ち上げられました。内閣府特命担当大臣(宇宙政策)の談話は、その位置づけをこう書いています。

今回の「みちびき7号機」は、我が国の準天頂衛星システムの一部として、現在運用中の5機と合わせ、国内外に正しい位置・時刻の情報を提供していきます。今後、所定の軌道に移動し、数か月程度かけて試験等を行い、速やかに運用を開始する予定です。

打ち上げられた日から使えるようになるわけではないという点は、押さえておく価値があります。所定の軌道への移動と試験に数か月程度かかると明記されています。

目標は7機体制です。その意味は、この記事の最初に見た「4機」と直結しています。

衛星測位には、4機以上の測位衛星が必要になります。みちびきの7機体制が確立されると、日本上空に常に4機以上のみちびきの衛星が滞空するようになるため、みちびき単独での持続測位が可能となります。

7機必要なのは、常に4機以上を日本の上空に置き続けるためです。8時間しかほぼ真上にいられない衛星で「常に」を作るには、頭数が要ります。大臣談話は、その先まで示しています。

他国の測位衛星がなくても、みちびきのみで測位が可能となる「7機体制」を早期に構築し、さらに、7機のうち、どの1機が故障しても測位機能を維持できる「11機体制」に向けた開発を加速してまいります。

なお、内閣府は2026年7月30日付のお知らせで、7号機の運用開始後を「6機運用期間中」と表現して、衛星軌道とサービス性能の資料を掲載しています。つまり7号機が運用に入っても、7機体制の完成にはまだ届きません。

まとめ

  • カーナビは衛星から位置を受け取っているのではなく、電波の到達時間から距離を出して計算している
  • 3機では解けないのは受信機の時計が正確でないから。4機目は時計のずれを解くために要る(10万分の1秒の誤差が3kmになる)
  • 都市部では、電波が届かないことよりも反射して回り道して届くこと(マルチパス)が誤差を生む。真上に近い衛星ほど起きにくい(なお公式サイトは、誤差全体で最も大きいのは電離圏による遅延だとしている)
  • 真上に静止はできないので、8の字軌道の3機が8時間ごとに交代する。「準」天頂の名は、真上に留まり続けられないことに由来する
  • 補強信号で誤差1m・数cmまで詰められるが、内閣府は自動車について他のセンサーとの組み合わせを求めている。センチメータ級については公道の運転では補助的な扱いとし、その理由に十数秒のタイムラグを挙げている(この十数秒はセンチメータ級についての記載)
  • 2026年8月11日に7号機を打ち上げ。運用開始は数か月程度先で、目標は常に4機以上が日本上空にいる7機体制、その先に11機体制

出典: 内閣府「みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト」の各ページ ― 衛星測位入門「宝探しで理解する衛星測位(3)衛星3機での測位」「同(4)距離に誤差がある場合の測位」(監修: 久保信明 東京海洋大学大学院准教授、構成: 喜多充成、イラスト: 西井匡)、「みちびきとは何か」「みちびきの必要性」「みちびきの軌道」「衛星測位サービス」「サブメータ級測位補強サービス」「センチメータ級測位補強サービス」「みちびきの優位性」「みちびき7機体制」、お知らせ「H3ロケット9号機による準天頂衛星システム「みちびき7号機」の打上げについて[内閣府特命担当大臣(宇宙政策)談話]」(2026年8月11日)、「みちびき6機運用下における衛星軌道及びサービス性能について」(2026年7月30日掲載)。いずれも2026年8月18日に確認しました。表中の精度は各サービス紹介ページに記載された値です。ただし1行目の「誤差10m程度」は「サブメータ級測位補強サービス」ページに比較の前提として書かれている値で(「一般に、GPSなどによる1周波の衛星測位では、誤差は10m程度になると言われていますが」)、「衛星測位サービス」ページの記載ではありません。実際の測位結果は受信機・アンテナ・周囲の環境によって変わります。時速60kmを秒速約17mとした換算、および仰角70度以上の8時間を3機で24時間とする計算は当サイトによるものです。衛星の運用状況や提供サービスは今後変わる可能性があるため、最新の情報は公式サイトでご確認ください。

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