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脱出用ハンマーの選び方 — 国が51銘柄を試した。それでも最初に確かめるのは、自分の車の窓

公開: 2026-08-17 / 更新: 2026-08-17

カーグッズのイメージイラスト

脱出用ハンマーは、カー用品店でもホームセンターでも通信販売でも買える、ごく手に入りやすい車の備えです。国土交通省は入手先を挙げたうえで「3千円未満程度で入手することが可能です。」と書き、「「命綱」として、1台に1本、備え付けをお願いします。」と呼びかけています。

ところが同じ資料には、買う前に確かめてほしいことが2つ書かれています。ひとつは製品を選ぶ話ですらなく、自分の車を調べる話です。この記事では、国土交通省の報道発表と、その後に公表された市販品の破砕性能調査の結果を一次資料としてたどります。

この道具が割れるのは、窓ではなく強化ガラス

国土交通省の資料は、注意点の第一に次の一文を置いています。

「合わせガラス」は、脱出用ハンマーでも割れません!

そして、この道具が何のための道具かを、こう定義しています。

脱出用ハンマーは、サイドガラスやリアガラスに使用される「強化ガラス」用です。

つまり脱出用ハンマーは、窓なら何でも割れる道具ではなく、強化ガラスという特定の種類のガラスを割る道具です。2種類のガラスの違いについては、前年に出た国土交通省の報道発表の別紙1に説明があります。

種類資料の説明
合わせガラス「2枚のガラスを特殊フィルム(中間膜)を介して接着しているもので、中間膜を破ることが非常に難しく、ガラスが割れても粉々にならない。」
強化ガラス「割れると尖りのない小さな破片になる。」

資料の説明から読み取れるのは、合わせガラスの割れにくさが不具合ではなく構造由来のものだということです。中間膜で接着されているため、割れても粉々にならず飛散しにくいと考えられます。ふだんの安全のために備わっている性質が、脱出のときだけ裏目に出るという関係になります(この整理は記事によるものです)。

フロントは割れない、で終わらせてはいけない

フロントガラスが合わせガラスであることは、比較的よく知られています。問題はその先で、資料は続けてこう書いています。

フロントガラスは、合わせガラスです。また、一部の車種では、サイドガラスやリアガラスにも合わせガラスが使用されています。

ここが、この記事でいちばん伝えたい点です。フロントさえ避ければ横は割れる、とは限りません。どの窓が割れるのかは車によって違い、カタログの数字を見比べても分かりません。だから国土交通省の指示は、製品選びではなく持ち主の宿題になります。

脱出用ハンマーを購入する際は、販売店にご確認頂く等により、ご自身の車の合わせガラスの箇所をご確認ください。

買う前に販売店へ一度聞いておく。それだけで、いざというときに叩く窓が決まります。

国が51銘柄を集めて試した — 53%の正しい読み方

もうひとつの確認事項が、製品そのものの性能です。2013年度に国民生活センターの調査で十分な破砕性能を持たない製品が確認されたことを受けて、国土交通省は市販品を幅広く買い集め、芝浦工業大学へ委託して改めて性能を調べました。

  • 対象は自動車用品販売店やWebサイト等で購入可能な51銘柄(金づちタイプ31・ピックタイプ9・ポンチタイプ11)
  • そのうちJISマーク取得が2銘柄、GSマーク取得が3銘柄、自動車メーカーが純正品としている製品が6銘柄(純正品6銘柄のうちJISマーク製品とGSマーク製品が1銘柄ずつと注記されているため、単純な足し算にはなりません)
  • 購入は令和2年12月〜令和3年2月、試験は令和3年1月〜5月

試験は2種類行われました。性能を保証する表示にJISマークとGSマークの2つがあるため、それぞれの認定基準に準拠した試験を実施したものです。

試験①(JISマーク準拠)— 装置で落として3回

金づちタイプとピックタイプは、JIS規格(JIS D 5716)の破砕性能試験に準拠し、衝突時のエネルギーが0.7Jとなる高さから先端が垂直にガラス面へ当たるようハンマーを自由落下させ、これを3回繰り返す方法で評価されました。ポンチタイプは対応する試験がJIS規格に無いため、実使用に近い試験方法が考案されています。

この0.7Jという値の出どころが、試験の性格を決めています。

JIS 規格において、人間が腕を振り下ろした際のトルク値のうち、年代/性別で最も数値が低い70代以上の女性のデータから算出されています。

つまりこの試験は、腕を振り下ろす力がいちばん弱い層を想定した条件で行われています。その結果が次の一文です。

3回中3回破砕できた製品は53%程度であり、性能差がみられました。

さらに、どの製品群が良かったかも明記されています。

JIS マークや GS マークを取得している製品及び各販売店等が推奨する製品(純正品等)については、ほとんどの製品が3回破砕し(一部2回破砕の製品があった)、特に十分な性能が確保されていました。

試験②(GSマーク準拠)— 人が手で割る

もう一方は、ドイツの製品安全法(ProdSG法)に準拠した方法で、自動車用ガラスの試験片を治具に設置し、20代〜40代の男女が手で破砕する試験です。こちらの結果は対照的でした。

全ての製品について、破砕可能であることを確認しました。

同じ51銘柄が、試験のやり方を変えると53%程度にも全数にもなります。だから、市販品の半分は割れない、と読むのは正しくありません。正しくは、割れるかどうかは製品の性能だけでなく、割る人がどれだけの力を出せるかにも左右されるということです。国土交通省のまとめも、そのままその形になっています。

力の弱い高齢の方等は、特に十分な性能が確保されている JIS マークや GS マークを取得している製品及び各販売店等が推奨する製品(純正品等)の購入を推奨します。

力に自信がない人が使う可能性のある車ほど、マーク付きや純正品を選ぶ意味が大きい、という読み方になります。

3つのタイプ — 握り方と割り方が違う

資料は脱出用ハンマーを3タイプに分け、「種類によって使用方法が異なるため、使いやすいものをお求めください。」としています。

タイプ使い方資料が触れている組み合わせ
金づちタイプ(31銘柄)金づちのように握って先端で窓を叩き割るシートベルトカッター等と一体型の製品もある
ピックタイプ(9銘柄)アイスピックのように握って窓に叩き付ける消火具や発炎筒と一体型の製品もある
ポンチタイプ(11銘柄)先端を窓に押し当てると自動で先端が飛び出して破砕する突起物が内蔵されている

どれが優れているという書き方はされていません。GSマーク準拠試験の分析でも、「製品の使用方法及び形状等の違いによる使いやすさは人によって差異があり、ハンマーの先端部分を垂直にガラスに衝突させることが重要との意見がありました。」とされており、評価は使う人によって割れています。共通して効くのは先端を垂直に当てることのほうです。

置き場所のほうが、製品選びより効くかもしれない

買っただけでは備えになりません。資料は保管について具体的に書いています。

いざという時、特にシートベルトが外れなくても手が届き、また走行中の振動などで、床面に転がったりしないような場所にしっかり収納しておきましょう。

備付け場所の例として挙がっているのはドアポケット・アシストグリップ・コンソールボックスの3か所です。トランクや後席の足元では、シートベルトを外せない状況で手が届かないと考えられます。

あわせて、保管時の安全にも触れられています。「突起部分にキャップ等が装着されている、保管時の安全性に十分考慮された製品をお求めください。」とあり、小さな子どもの手が触れないよう注意も促されています。ポンチタイプのように先端が飛び出す構造の製品では、この点が製品選びの条件になります。

使うときの注意 — 割った瞬間に水が入る

使用時の注意も2点、具体的に書かれています。

  • 水と一緒に流れ込むガラス片: 「水面が窓の下縁以上に達した状態で窓ガラスを破砕すると、割れた破片が水と共に車内に勢いよく流れ込む可能性がありますのでご注意ください。」
  • 割った後: 「ハンマーで破砕した際、窓枠にガラスが残ることがありますが、ガラスの破片の角は丸くなっているため、怪我をすることなく手で簡単に振り払えます。」

1つ目は、窓を割るのが早いほど有利だということでもあります。水位が窓の下まで来る前なら、割っても水が流れ込みません。

そもそもハンマーは3番目の手段

忘れてはいけないのは、資料の脱出手順でハンマーが登場するのが3番目だということです。国土交通省が示す手順は次の4段階です。

  1. 水位が低いうちにドアを開けて脱出する
  2. 水圧等でドアが開かない場合、窓を開いて脱出する
  3. ドアも窓も開かない場合は、脱出用ハンマーで窓を割って脱出する(ただし合わせガラスは割れない)
  4. それでも脱出できない場合も、あきらめない

4段階目には理由が書かれています。「浸水により内外の水位が同程度になると、ドアが開く可能性が高まります。」。窓が割れなかったとしても、そこで終わりではありません。

そして、なぜ道具が要るのかも書かれています。「自動車の窓ガラスは、走行中の安全性確保のため、十分な強度を有しており、専用の道具を使わず破砕することは困難です。」。素手や車内にある物では割れない前提で用意されているのが、この3千円未満の道具です。

まとめ — 買う前にやることが1つある

  • 脱出用ハンマーが割れるのは強化ガラス。フロントガラスの合わせガラスは割れず、一部の車種ではサイドガラスやリアガラスにも合わせガラスが使われている
  • だから買う前に、自分の車のどこが合わせガラスかを販売店に確認する(国土交通省が明示的に求めていること)
  • 市販51銘柄の調査では、力の弱い人を想定したJISマーク準拠試験で3回中3回割れた製品は53%程度。一方、20代〜40代が手で割るGSマーク準拠試験では全製品が破砕できた
  • 迷ったらJISマーク・GSマーク付き、または販売店推奨品(純正品等)。国土交通省が推奨しているのはこの範囲
  • 置き場所はシートベルトが外れなくても手が届き、走行中に転がらない所(例: ドアポケット・アシストグリップ・コンソールボックス)
  • ハンマーは3番目の手段。ドア、窓、ハンマーの順で、割れなくてもあきらめない

冠水路に入らないことが最善である点は変わりません。走行中の判断や、水没してしまった車の保険・手続きは台風・大雨から車を守るにまとめています。

出典: 国土交通省 報道発表資料「台風の前に車両からの脱出手順の確認を!―水没車両からの脱出手順と脱出用ハンマー搭載のお願いについて―」(令和2年8月12日)および別紙1「自動車ユーザーの皆様へ―車両からの脱出手順について―」、ならびに自動車不具合情報ホットライン「豪雨に備えて、車に脱出用ハンマーを備えましょう!」(掲載2021年6月24日)の別紙1「脱出用ハンマーの種類・使用方法をまとめたビデオの概要」・別紙2「脱出用ハンマーの市場製品の破砕性能調査結果」。資料名はいずれもPDF本文に記載された表題によります(リンク元のページ上の案内文とは字句が異なる場合があります)。銘柄数・試験方法・試験結果はいずれも別紙2の記載によります。2026年8月17日に各資料を確認しました。製品の仕様や価格は変わることがあるため、購入時は最新の表示をご確認ください。

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