自賠責保険とは — 補償内容・保険料・期間と切れたときの重い罰則

車検のたびに、明細の「法定費用」の欄に自賠責保険料が並びます。自家用乗用車の24か月契約で17,650円。任意保険のように会社を選ぶこともできず、金額も動かせない、ただ差し引かれていく数字です。
ところがこの17,650円は、損害保険料率算出機構が公表しているグラフでさかのぼれる範囲(2008年度以降)では最も安い水準です。2013年度には27,840円でした。そして2026年11月1日から、13年ぶりに引き上げられます。
なぜ下がり続け、なぜ今上がるのか。なぜ会社を選べないのか。なぜ相手のケガしか補償しないのか。これらの答えは、すべて同じ一点に行き着きます。自賠責保険は「保険商品」である前に、事故の責任のルールそのものを書き換えた法律だからです。この記事では、自動車損害賠償保障法(自賠法)と政令・告示、そして損害保険料率算出機構が公表している統計をたどって、その中身を確かめます。
自賠責保険は、保険である前に「責任のルール」を書き換えた
自賠責保険の根拠法である自動車損害賠償保障法は、1955年に公布されました。この法律が最初に置いた条文は、保険の話ではありません。誰がどういうときに賠償責任を負うのかという、責任そのもののルールです。
第3条は次のように定めています。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
読みどころは「ただし」以下です。責任を免れるには、車を運行させていた側が3つのことをすべて証明しなければなりません。自分も運転者も注意を怠らなかったこと、被害者か第三者に故意・過失があったこと、車に構造上の欠陥も機能の障害もなかったこと。ひとつでも証明できなければ、責任は残ります。
民法の一般原則では、損害賠償を求める側が相手の過失を証明します。第3条はこれをひっくり返し、証明する側を加害者に移したわけです。事故の瞬間を目撃していない被害者が、相手の不注意を立証しなければ何も受け取れない——その状態を法律のほうから解消した条文だといえます。
そのうえで第5条が、この責任に対応する保険を義務づけます。
自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
責任のルールを厳しくしても、加害者に支払能力がなければ被害者は救われません。だから責任と保険がセットで設計されている。この順序を押さえておくと、以下の「変わったところ」がすべて同じ思想から出ていることが見えてきます。
補償されるのは「他人の身体」だけ — 限度額の正確な中身
第3条が対象にしているのは「他人の生命又は身体」です。したがって自賠責保険が支払うのも、事故の相手の人身損害だけです。相手の車やガードレールなどの物損は一切対象になりません。自分のケガや自分の車の修理にも使えません。
支払限度額は自賠法第13条第1項が「政令で定める」とし、自動車損害賠償保障法施行令第2条が金額を定めています。よく「死亡3,000万円・後遺障害75万〜4,000万円・傷害120万円」と紹介されますが、条文の構造はもう少し細かく分かれています。
| 損害の区分 | 限度額(被害者1人につき) |
|---|---|
| 死亡による損害 | 3,000万円 |
| 死亡に至るまでの傷害による損害 | 120万円(死亡分とは別枠) |
| 介護を要する後遺障害(別表第一) | 第1級 4,000万円/第2級 3,000万円 |
| 後遺障害(別表第二) | 第1級 3,000万円 〜 第14級 75万円 |
| 傷害による損害 | 120万円 |
出典: 自動車損害賠償保障法施行令第2条・別表第一・別表第二(e-Gov 法令検索)
ここで2点補足します。ひとつは、上限の4,000万円は「介護を要する後遺障害」の第1級に限られること。常に介護を要する状態を対象にした別枠で、通常の後遺障害の最高額は第1級の3,000万円です。もうひとつは、死亡事故では死亡分3,000万円とは別に、死亡に至るまでのケガの分として120万円の枠があること。事故から日を置いて亡くなった場合、その間の治療費や慰謝料はこちらから支払われます。
そして限度額は事故1回あたりではなく、被害者1人ごとに定められています。損害保険料率算出機構も、限度額は被害者1名ごとに定められており、1つの事故で複数の被害者がいる場合でも被害者1名あたりの限度額が変動することはない、と説明しています。
もっとも、重い後遺障害や死亡では賠償額が限度額を超えることが珍しくありません。その超過部分を担うのが任意保険の対人賠償です。機構はこの関係を、対人賠償責任保険は自賠責保険との関係において上積み保険として機能している、と説明しています。
いくら払うかまで、国が決めている
自賠責保険がほかの保険と決定的に違うのは、限度額だけでなく、損害の項目ごとの単価まで公表された基準で決まっていることです。自賠法第16条の3は次のように定めます。
保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。
この支払基準は告示として公開されていて、誰でも読めます。主な項目を抜き出すと次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 慰謝料 | 1日につき 4,300円 |
| 休業損害 | 1日につき原則 6,100円(立証があれば1日19,000円を限度に実額) |
| 入院中の諸雑費 | 1日につき 1,100円 |
| 近親者等による看護料(自宅・通院) | 1日につき 2,100円 |
| 葬儀費 | 100万円 |
| 死亡本人の慰謝料 | 400万円 |
| 遺族の慰謝料 | 請求権者1人 550万円/2人 650万円/3人以上 750万円(被扶養者がいるときは200万円加算) |
| 後遺障害の慰謝料(別表第二) | 第1級 1,150万円 〜 第14級 32万円 |
出典: 自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)。休業損害の上限19,000円は自動車損害賠償保障法施行令第3条の2
慰謝料が1日4,300円と決まっている、という事実は、自賠責保険の性格をよく表しています。示談交渉で額を積み上げていくのではなく、誰が請求しても同じ計算で出るように設計されている。逸失利益についても、労働能力喪失率表・就労可能年数のライプニッツ係数・年齢別平均給与額といった表が告示に添付されていて、計算の材料まで公開されています。
さらに第16条の4は、請求があったときは支払基準の概要を記載した書面を、支払ったときは支払額・後遺障害の等級・その等級と判断した理由を記載した書面を、支払わないと決めたときはその理由を記載した書面を、それぞれ交付するよう保険会社に義務づけています。結果だけでなく、根拠を書いて渡すところまで法律が決めているわけです。
被害者の過失が7割未満なら、1円も減らされない
任意保険の対人賠償では、被害者側にも過失があれば、その割合に応じて賠償額が減ります。3割の過失があれば3割減る、という考え方です。
自賠責保険はここが違います。支払基準の「第6 減額」は、減額を重大な過失があった場合に限っています。
| 被害者の過失割合 | 後遺障害又は死亡に係るもの | 傷害に係るもの |
|---|---|---|
| 7割未満 | 減額なし | 減額なし |
| 7割以上8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
| 8割以上9割未満 | 3割減額 | 2割減額 |
| 9割以上10割未満 | 5割減額 | 2割減額 |
出典: 支払基準 第6「減額」1 重大な過失による減額(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)
被害者の過失が6割でも、減額はゼロです。しかも傷害については、過失が9割台でも減額は2割にとどまります。加えて、傷害による損害額(後遺障害・死亡に至る場合を除く)については、減額して20万円以下になる場合は20万円とする、という下限まで置かれています。
ほかにも、第18条は被害者の請求権を差し押えることができないと定めています。過失相殺の緩和も、差押えの禁止も、狙いは同じです。被害者の手元に確実にお金が届く経路を、法律のほうで用意している。
どこで入っても同じ金額になる理由は、3つある
「自賠責はどこで入っても同じ」はよく知られていますが、それを支えている仕組みは1つではありません。少なくとも3つの層があります。
1. 利潤を織り込んではいけない(自賠法第25条)
自賠法第25条は、保険料率について次のように定めています。
責任保険の保険料率及び責任共済の共済掛金率は、能率的な経営の下における適正な原価を償う範囲内でできる限り低いものでなければならない。
損害保険料率算出機構はこれをノーロス・ノープロフィットの原則と呼び、民間の保険には付加保険料率のなかに利潤が織り込まれているのに対し、自賠責保険は利潤や損失が生じないように算出する必要がある、と説明しています。値上げも値下げも、儲けや競争ではなく原価の変動として起こります。
2. 全社が同じ基準料率を使っている
基準料率を算出しているのは損害保険料率算出機構です。機構は、会員保険会社は自社の保険料率として機構が算出した基準料率を使用することができ、現在は全ての会員保険会社が基準料率を使用している、と公表しています。料率の届出は金融庁長官に対して行われ、適合性審査を受け、自賠責保険審議会の審議を経たうえで国土交通大臣の同意を得る、という手順を踏みます。
3. 保険料と保険金が会社をまたいでプールされている(自賠法第28条の4)
自賠法第28条の4は、保険会社と組合が相互間で共同して、保険料、保険金等の計算、配分及び徴収をする事務を行うものとする、と定めています。集めた保険料も支払った保険金も、あらかじめ届け出た配分率に従って各社の間で配分・徴収されるということです。ある会社に事故の多い契約が集まっても、その会社だけが損をする構造になっていません。競争しない設計が、法律の側から用意されているわけです。
おまけ: 支払う金額を調べているのも、保険会社ではない
同じことは支払いの側にもいえます。損害保険料率算出機構は、保険会社から送付された請求書類に基づいて、事故発生状況・支払いの的確性・発生した損害の額などを公正かつ中立的な立場で調査し、その結果を保険会社に報告する、と説明しています。そして報告を受けた保険会社は、当機構の調査結果に基づいて支払額を決定し、請求者に支払うとしています。
判断が難しい事案は自賠責損害調査事務所から地区本部・本部へ上がり、特定事案は自賠責保険(共済)審査会にかけられます。審査会には、日本弁護士連合会が推薦する弁護士・専門医・交通法学者・学識経験者等の外部の専門家が参加します。保険料も、支払額の調査も、会社の外側で決まる。だから会社を選んでも結果が変わらない、というのが実態に近い説明です。
保険料は下がり続けていた — 2026年11月の引き上げを読む
損害保険料率算出機構は2026年4月30日に基準料率の変更を金融庁長官へ届け出て、同年5月21日に適合性審査が終了しました。平均6.2%の引き上げで、2026年11月1日以降に保険期間が始まる契約に適用されます。
ただ、この改定を「値上がりの話」として読むと本質を外します。機構が公表した自家用乗用自動車(24か月契約・離島および沖縄県を除く地域)の基準料率の推移は、次のように動いてきました。
| 年度 | 基準料率(24か月) |
|---|---|
| 2008年度 | 22,470円 |
| 2011年度 | 24,950円 |
| 2013年度 | 27,840円 |
| 2017年度 | 25,830円 |
| 2020年度 | 21,550円 |
| 2021年度 | 20,010円 |
| 2023年度 | 17,650円 |
| 2026年(11月〜) | 18,560円 |
出典: 損害保険料率算出機構「【自賠責保険】基準料率届出のご案内(2026年4月30日金融庁長官への届出)」掲載のグラフ
ピークは2013年度の27,840円で、そこから10年かけて17,650円まで下がりました。引き上げは2013年度以来13年ぶりで、しかも引き上げ後の18,560円は、2008年度の22,470円をまだ下回っています。
なぜ下げられたのか。機構の説明では、2023年度に引き下げとなった現行料率には過去契約から発生した滞留資金(収支余剰と運用益)の一部が充当されており、その結果として純保険料率の収支が均衡する水準より3割程度安く設定されているとされています。過去の貯金を取り崩して安くしていた、ということです。
そして今回の引き上げの理由も、同じ資料に書かれています。この滞留資金が保険金支払によって費消されてきたことに加えて、近年の物価・賃金上昇等の影響を受け、新たに収支均衡を図るために引き上げが必要になった、というものです。2022年度末に7,239億円あった滞留資金は、2025年度末時点で残高が約2,000億円減少したと説明されています。
内訳も公表されていて、純保険料率が1.9%、社費と代理店手数料が4.3%の引き上げです。後者は物価・賃金の上昇が背景で、2024年度の経費計算基準の見直しによって支出社費は150億円程度削減されたものの、それでも引き上げが必要になった、とされています。
改定後、軽自動車が自家用乗用車より高くなる
車種別の改定額を並べると、見慣れない逆転が起きます。
| 車種(離島・沖縄県を除く) | 24か月 現行→改定 | 改定率 | 36か月 現行→改定 | 改定率 |
|---|---|---|---|---|
| 自家用乗用自動車 | 17,650円 → 18,560円 | +5.2% | 23,690円 → 24,690円 | +4.2% |
| 軽自動車(検査対象車) | 17,540円 → 18,660円 | +6.4% | 23,520円 → 24,830円 | +5.6% |
| 自家用小型貨物自動車 | 20,340円 → 21,430円 | +5.4% | — | — |
| 一般原動機付自転車 | 8,560円 → 9,630円 | +12.5% | 10,170円 → 11,480円 | +12.9% |
出典: 損害保険料率算出機構「【自賠責保険】基準料率届出のご案内(2026年4月30日金融庁長官への届出)」2. 主要車種の改定率の例
現行料率では軽自動車のほうが110円安いのに、改定後は軽自動車18,660円・自家用乗用自動車18,560円で、100円だけ軽のほうが高くなります。36か月契約でも同じ向きの逆転が起きます。自賠責の料率区分は任意保険と違って用途・車種と保険期間と地域しかありませんから、車種ごとの改定率の差は、その区分のリスク実態の変化がそのまま出た結果ということになります。原動機付自転車の12%台という改定率も目を引きます。
なお、この金額は基準料率であり、実際の保険料や適用開始時期は契約条件によって異なります。2026年のほかの制度変更とあわせた全体像は2026年、車の税金・費用はこう変わったで整理しています。
実際には、何にいくら払われているのか
損害保険料率算出機構の『自動車保険の概況』には、自賠責保険の統計表が第1表から第12表まで収められています。2024年度の全体像は次のとおりです。
| 項目 | 2024年度 |
|---|---|
| 契約台数 | 39,608,709台 |
| 保険料 | 約6,758億円 |
| 死亡 | 2,461件・約602億円 |
| 傷害および後遺障害 | 812,684件・約4,839億円 |
| 支払合計 | 815,145件・約5,441億円 |
出典: 損害保険料率算出機構『自動車保険の概況 2025年度版』第1表「自賠責保険収支の推移」
1件あたりに直すと、死亡が約2,445万円、傷害および後遺障害が約59.5万円です(いずれも上表の金額を件数で割った筆者算出)。死亡の平均が限度額3,000万円に近いのに対し、傷害は限度額120万円の半分ほどにとどまります。
収支の見方も、この表から確かめられます。2026年4月30日の届出資料によれば、基準料率のうち将来の保険金支払に充てられる純保険料率の構成割合は0.585です。2024年度の保険料 約6,758億円にこの割合をあてはめると約3,954億円になり、同じ年度に支払われた保険金 約5,441億円を下回ります(筆者算出)。ただしこの構成割合は改定時点のもので年度ごとの実際の配分と一致するものではなく、また同じ年度に支払われた保険金は過去の契約年度に起きた事故の分も含みます。単年度の収支の対応関係を厳密に示す計算ではありません。機構が説明する、滞留資金が保険金支払によって費消されてきたという状況と、向きは一致します。
自賠責が実際に払っているのは、首のけが
もう一段細かい表を見ると、印象が変わります。第8表は請求事案の初診時の傷病名を受傷部位別に集計したもので、2024年度の合計は1,986,253個です。
| 受傷部位 | 傷病数 | 構成比(筆者算出) |
|---|---|---|
| 頚部 | 548,290 | 27.6% |
| 上肢 | 393,209 | 19.8% |
| 腰背部 | 378,155 | 19.0% |
| 下肢 | 337,937 | 17.0% |
| 頭顔部 | 134,447 | 6.8% |
| 胸部 | 101,531 | 5.1% |
| 腹部 | 34,463 | 1.7% |
| 全身 | 20,923 | 1.1% |
出典: 損害保険料率算出機構『自動車保険の概況 2025年度版』第8表「自賠責保険(共済)受傷部位別傷害度別傷病数・構成比(傷害)」。ほかに「その他」37,298
最も多いのは頚部で、全体の4分の1を超えています。しかも頚部の傷害度は97.1%が軽度です。傷害度別の合計でも軽度が83.1%を占めます。自賠責保険が日常的に処理しているのは、重大事故ではなく、追突などで首を痛めた比較的軽いけがだということになります。
ただし「軽い」ことと「短く済む」ことは別です。第10表は診療期間ごとの件数で、2024年度の計844,299件の分布は次のようになっています。
| 診療期間 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 1〜30日 | 310,863 | 36.8% |
| 31〜60日 | 102,796 | 12.2% |
| 61〜90日 | 93,779 | 11.1% |
| 91〜120日 | 104,928 | 12.4% |
| 121〜150日 | 72,311 | 8.6% |
| 151〜180日 | 57,859 | 6.9% |
| 181〜360日 | 91,999 | 10.9% |
| 361日以上 | 9,764 | 1.2% |
出典: 損害保険料率算出機構『自動車保険の概況 2025年度版』第10表「自賠責保険(共済)診療期間ランク別傷害度別件数・構成比(傷害)」。ほかに「不明」23,140件
1か月以内で終わるのは36.8%にとどまり、半年を超える人が12.1%(181日以上の合計101,763件、筆者算出)います。傷害の限度額は120万円で、そのなかに治療費も休業損害も慰謝料もすべて収まらなければなりません。通院が長引けば、この枠は思ったより早く見えてきます。任意保険を「上乗せ」として持つ意味は、限度額の絶対値だけでなく、この分布からも読めます。
自家用乗用車は45台に1件
第2表の車種別で見ると、自家用乗用自動車は契約17,308,202台に対して支払件数384,627件です。割ると2.22%、およそ45台に1件の割合で支払いが発生している計算になります(筆者算出)。同じ『自動車保険の概況』の任意自動車保険の統計では、自家用普通乗用車の対人賠償責任保険の支払件数は契約台数の0.44%です。相手のけがそのものは自賠責が受け止め、対人賠償が動くのはそれで足りなかったときだけ、という上積み保険の関係が、件数の差にも表れています。
いつ・どこで加入するか — 車検とセット
自賠責保険は、新車購入時と車検のときに加入・更新するのが一般的です。自賠法第9条は、道路運送車両法にもとづく検査などの処分を受けようとする者は自賠責保険証明書も提示しなければならないと定めていて、次の車検までの有効期間をすべてカバーする自賠責保険がなければ車検は通りません。
このため車検を受けるときは、車検有効期間より1か月ほど長い期間(2年車検なら24か月ではなく25か月)の契約が案内されることがあります。満了ぎりぎりでの空白を作らないための余裕分です。実際に必要な期間は車検の残り期間によって変わるので、見積書の内訳で確認してください。保険料は車検費用の法定費用の一部として支払います。車検費用全体の内訳は車検の費用相場で解説しています。
なお料率区分は、用途・車種と保険期間のほかに地域があります。機構は、北海道・本州・四国・九州、これらの離島、沖縄県、沖縄県の離島によっても異なる保険料になると説明しています。この記事で挙げた金額はいずれも離島および沖縄県を除く地域のものです。
切れたまま運転すると — 罰則は重い
自賠責保険が切れた状態で公道を走る「無保険運行」は、第5条違反として第86条の3で罰せられます。
- 無保険運行(第5条違反) — 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(自賠法第86条の3第1項第1号)。道路交通法にもとづく違反点数は6点で、一発で免許停止に該当します
- 自賠責保険証明書の備付なし(第8条違反) — 30万円以下の罰金(自賠法第88条第1号)。証明書は車に備え付けておく必要があります
※「1年以下の懲役」と書かれた解説を見かけますが、e-Gov 法令検索で確認できる現行の条文は拘禁刑です。
さらに、自賠責が切れていると車検も通りません。車検切れと自賠責切れは同時に起きやすく、両方切れた車で走ると処分が重くなります。うっかり切らしていた場合の対処は車検切れの車はどうすればいい?もあわせて確認してください。
事故に遭ったら — 被害者側から請求できる
自賠責保険は加害者が契約している保険ですが、被害者の側から直接請求することもできます。
- 加害者請求 — 加害者が被害者に賠償金を支払った後、その金額について自分の自賠責保険に請求する方法
- 被害者請求(第16条第1項) — 被害者が加害者側の自賠責保険会社に、保険金額の限度で損害賠償額の支払いを直接請求する方法。示談がまとまらないときや、加害者が対応しないときに使えます
- 仮渡金(第17条第1項) — 損害賠償額が確定する前でも、当座の出費にあてるために請求できる制度
仮渡金の金額は施行令第5条で決まっています。死亡は290万円。傷害は、脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状や大腿・下腿の骨折、14日以上の入院を要し医師の治療期間が30日以上のものなどが40万円、脊柱の骨折や上腕・前腕の骨折、入院を要する傷害で治療期間30日以上のものなどが20万円、11日以上医師の治療を要する傷害が5万円です。
また、加害者側に任意の対人賠償責任保険の契約があるときは、その契約保険会社が窓口になって自賠責保険の支払分もまとめて支払う一括払制度があります。この場合、被害者が自賠責と任意保険それぞれに請求する必要はありません。
時効は自賠法第19条にあり、被害者請求と仮渡金の請求権は被害者またはその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年で時効消滅します。起算点が「事故の日」ではなく「損害及び保有者を知った時」である点は、覚えておく価値があります。
自賠責では救われない事故に、国が用意した窓口
ひき逃げで加害車両が分からない場合や、自賠責保険をつけていない無保険車が加害車両だった場合、被害者は自賠責保険からは支払いを受けられません。この穴を埋めるのが政府の保障事業です(自賠法第72条第1項)。
損害保険料率算出機構は、政府の保障事業は被害者が受けた損害を国(国土交通省)が加害者にかわって塡補(立替払い)する制度であり、支払限度額は自賠責保険(共済)と同じだが、次の点が異なると説明しています。
- 請求できるのは被害者のみ。加害者からは請求できない
- 被害者に支払った後、政府が加害者に求償する
- 健康保険・労災保険などの社会保険による給付額(給付を受けるべき額を含む)があれば、その金額は差し引いて支払う
請求の窓口は損害保険会社(組合)で、機構は保険代理店では受付していないと明記しています。調査は自賠責と同じく機構が担い、支払額の審査・決定は国土交通省が行います。
この制度が年間どれくらい使われているかも公表されています。2024年度に機構が受け付けた政府保障事業の損害調査件数は、全国でひき逃げ257件・無保険135件の合計392件でした。同じ年度の自賠責保険の支払件数815,145件と並べると、比率としてはごく小さい。ただ、その392件は自賠責の外側に落ちた事故であり、この制度がなければ被害者に何も届かなかったケースです。自賠責の保険料に含まれる賦課金は、政府の自動車損害賠償保障事業と被害者保護増進等事業の財源に充てられています。
廃車・売却したときの還付
車を廃車(永久抹消・一時抹消)にして自賠責保険を解約すると、残りの保険期間に応じて保険料の一部が戻ってくることがあります。ここで注意が要るのは解約の時点です。国土交通省は、廃車をした時点ではなく、損害保険会社(共済組合)にて手続きをして頂いた時点で初めて解約することとなる、と案内しています。抹消登録を済ませたら早めに動くほうが、戻る額は大きくなります。
戻る額そのものにも条件があります。同じ案内には、保険料には損害保険会社(共済組合)の手数料が含まれており、返戻金額は手数料や保険期間を勘案した額となる、保険期間の残りが1か月未満の場合は解約返戻保険料がない、と書かれています。金額の詳細は契約している損害保険会社に確認してください。
売却でそのまま次の所有者に車検・自賠責を引き継ぐ場合は、自賠責も車とともに移るのが一般的です。売却時に用意する書類の全体像は車の売却に必要な書類で整理しています。
まとめ
自賠責保険を「車検のたびに引かれる法定費用」として見ると、ただの固定費です。しかし条文と告示と統計をたどると、別のものが見えてきます。
- 責任のルールから設計されている — 第3条が立証責任を加害者側に移し、第5条がその責任に対応する保険を義務づけた。補償が「他人の身体」に限られるのは、この責任の範囲がそうだからです
- 金額も判断も、会社の外側で決まる — 料率は機構が算出して全社が使い(第25条・第28条の4)、支払額の調査も機構が行い、単価は告示で公表されている(第16条の3)。だから会社を選んでも結果が変わりません
- 被害者の過失が7割未満なら減額されない — 任意保険の対人賠償とは減額の考え方が違います
- 保険料は13年下がり続け、2026年11月に上がる — 過去の滞留資金で安くしていた分が尽きたことと、物価・賃金の上昇が理由と説明されています
- 限度額は被害者1人ごとで、傷害は120万円 — 診療期間が半年を超える人が12%いることを考えると、上乗せの任意保険は実質的に必須です
車にかかる保険・税金・車検の年間の流れは年間スケジュールまとめで、任意保険の保険料が何で決まるかは等級と保険料の仕組みで確認できます。
※この記事の金額・限度額・罰則・還付の条件は、2026年8月時点で公表されている法令・告示・公表資料にもとづいています。基準料率は毎年度検証され、改定の必要があれば届出が行われます。契約や請求の際は、損害保険会社・損害保険料率算出機構・国土交通省などの公式情報を必ず確認してください。









