自動車保険の等級制度とは — 事故で保険を使うと保険料はいくら上がる?

自動車保険の保険料を最も大きく左右するのは等級だ — とよく言われます。これは印象論ではなく、数字で確かめられます。保険料率を算出している損害保険料率算出機構(以下、料率機構)は、自動車保険の保険料率を7つの区分で組み立てており、区分ごとに較差 — 最も安い区分と最も高い区分で保険料率が何倍違うか — を公表しています。その較差が最も大きいのが、等級です。
この記事では料率機構の公表資料と支払統計をもとに、等級制度の骨格と、「保険を使うか自腹か」を判断するときに手がかりになる数字を整理します。
等級は、保険料を決める区分の中でいちばん較差が大きい
料率機構『自動車保険の概況 2025年度版』(2026年4月発行)から、参考純率における料率区分ごとの較差を並べたものです。
| 料率区分 | 区分の内容 | 最も安い区分と最も高い区分の較差 |
|---|---|---|
| 過去の事故歴(ノンフリート等級) | 1〜20等級 | 約5.62倍 |
| 自動車の型式(型式別料率クラス) | 自家用普通・小型乗用車 1〜17クラス | 約4.30倍 |
| 同上 | 軽四輪乗用車 1〜7クラス | 約1.73倍 |
| 運転者の年齢(運転者の年齢範囲) | 全年齢補償/21歳以上補償/26歳以上補償の3区分 | 約3.00倍 |
| 運転者の年齢(記名被保険者の年齢層) | 30歳未満〜75歳以上の8区分(個人契約の場合) | 約1.44倍 |
| 自動車の安全性能(衝突被害軽減ブレーキの装着の有無) | 装着あり/なし(発売後約3年以内の型式) | 約1.10倍 |
| 初度登録(検査)後の経過期間 | 25か月以内/25か月超49か月以内/49か月超の3区分 | 約1.10倍 |
| 運転者の範囲(運転者限定) | 限定しない/本人・配偶者に限定する | 約1.04倍 |
※記名被保険者の年齢層の約1.44倍、初度登録後の経過期間の約1.10倍(自家用普通・小型乗用車の場合)、運転者限定の約1.04倍には、いずれも対人賠償責任保険の場合という注記が図中に付いています(運転者の年齢範囲の約3.00倍には注記がありません)。ほかに「自動車の種類(用途・車種)」「付保台数(ノンフリート・フリート)」「支払限度額」の区分がありますが、これらには較差の記載がありません。上の表は、較差が公表されている区分をすべて並べたものです。
車の型式で約4.30倍、運転者の年齢範囲で約3.00倍。どれも小さくありませんが、等級の約5.62倍がそれらを上回ります。
しかも等級は、動き方が他の区分と違います。年齢範囲や運転者限定は契約時にどれを選ぶかという選択で決まり、記名被保険者の年齢層は年齢が上がれば勝手に移ります。型式別料率クラスに至っては自分ではどうにもなりません — 料率機構は「毎年、型式ごとのリスクが現在位置づけられているクラスに見合っているかを検証しています」としたうえで、「このため、クラスが上がる型式の契約者は、ご自身は事故を起こしていなくても保険料が高くなるケースがあります。」と明記しています。同じ車に乗り続けていてもクラスは動くわけです。
それに対して等級は、無事故を積み重ねるという行動でしか動かない区分です。較差が最大で、しかも日々の運転と保険の使い方が直接効く — 等級の扱いを知ることが保険料の管理に直結するのは、この2つの理由からです。
ちなみに型式別料率クラスは、クラスが1つ上がると保険料が√1.2倍(約1.1倍)になる設計だと明記されています。等級については1段ごとの倍率は公表されていませんが、1〜20等級を通した較差が約5.62倍であることから、階段の総高さは型式クラスより高いことになります。
ノンフリート等級とは — 車1台ごとに事故歴を測る仕組み
「ノンフリート」は、保険を付けている車の台数による区分です。料率機構の定義では総付保台数9台以下がノンフリート、10台以上がフリートで、個人の契約はほぼすべてノンフリートに当たります。
この2つは、単に台数で呼び分けているのではなく、リスクの測り方そのものが違います。
- フリート — 「保険契約者が保険を付けている自動車すべてを対象にして、保険契約者が支払った保険料と保険会社が支払った保険金の割合を把握し、これによりリスク評価を行い、保険料の割増引に反映しています」(料率機構)。つまり契約者単位の収支で見る
- ノンフリート — 「保険を付けている自動車それぞれについて、過去の事故歴によりリスクを測定し、これを保険料の割増引に反映する『ノンフリート等級別料率制度』を設けています」(同)。つまり車1台ごとの事故歴で見る
等級が「人」ではなく「1台ごとの契約」に付いているのは、この設計に由来します。2台持っていれば等級は2つあり、片方で事故を起こしても、もう片方の等級は下がりません。なお、フリート契約の割増引については参考純率上は定められておらず、各社が独自に設計しています。
上がり方と下がり方 — 1年で1つ上がり、事故1件で3つ下がる
料率機構は、等級の決定を次の2例で説明しています。
- 「18等級の契約で、1年間無事故の場合は、翌年度は1等級上がり19等級を適用します。」
- 「18等級の契約で、事故が1件あり保険金を受け取った場合、翌年度は3等級下がり15等級を適用します。」
ここが等級制度の非対称なところです。上がるのは年に1つ、下がるのは一度に3つ。1回の事故で3年分の積み上げが消えるという関係になっています。
スタート地点は「新規の契約は、通常6等級に位置付けますが、2台目以降の自動車の契約で、一定の条件を満たす場合は、7等級に位置付けます」と説明されています。2台目からの7等級スタートが、各社で「セカンドカー割引」などと呼ばれているものです。6等級から無事故で上がり続けると、上限の20等級に届くのは14年後ということになります。
3等級下がらない事故もある
保険を使うと必ず3つ下がるわけではありません。料率機構は、3等級下がらないケースとして次の2つを挙げています。
| 区分 | 料率機構が挙げる例 | 翌年度の等級 | 「事故有」を適用する期間 |
|---|---|---|---|
| 3等級ダウン | 上記以外の、保険金を受け取った事故 | 3つ下がる | 3年 |
| 1等級ダウン | 「車両保険における火災、落下物との衝突の場合など」 | 1つ下がる | 1年 |
| ノーカウント | 「人身傷害保険のみにかかる事故、原動機付自転車に関する特約にかかる事故の場合など」 | 下がらず1等級上がる | 加算なし |
実務でよく話題になる飛び石・落書き・盗難・台風や洪水による車両保険の請求は、一般に1等級ダウンとして扱われますが、どの請求がどの区分になるかを最終的に決めているのは各社の約款です。料率機構の資料でも例示に「など」が付いており、網羅列挙ではありません。請求前に保険会社へ等級への影響を確認するのが確実です。なお、事故直後に現場でやるべきことと保険会社への連絡の流れは交通事故の対応手順にまとめています。
「事故有」区分 — 同じ等級に2つの保険料がある理由
等級制度でいちばん分かりにくいのが、同じ等級なのに保険料が2通りある点です。料率機構はこう説明しています。
1等級から6等級については「無事故」と「事故有」で保険料に差を設けていません。一方、7等級から20等級については、同じ等級でも、事故がなかった契約者と事故があった契約者とではリスクに違いが見られるため、さらに「無事故」・「事故有」区分を設けています。
つまりこの二重構造は、制度設計者の思いつきではなく実際のデータでリスク差が観測された結果として説明されています。裏を返せば、1〜6等級ではその差が見られなかったため区分を設けていない、ということになります。
差の大きさも公表されています。20等級の「無事故」と「事故有」の較差は約1.32倍。等級そのものが下がったうえに、下がった先の等級でもさらに3割ほど高い側の係数が当たる、という二段構えです。
適用期間の動き方は次のとおりです。18等級で3等級ダウン事故を起こした場合、
- 1年後: 15等級・事故有(残り3年)
- 2年後: 16等級・事故有(残り2年)
- 3年後: 17等級・事故有(残り1年)
- 4年後: 18等級・無事故区分に復帰
等級は毎年1つずつ戻っていきますが、その間ずっと「事故有」の係数が当たり続けます。「事故が1件あり保険金を受け取った場合、3年間『事故有』区分を適用し、その間無事故であれば、そののち『無事故』区分を適用することになります」というのが料率機構の説明です。
期間には上限もあります。「事故1件につき3年間『事故有』区分を適用しますが、1年間に3件以上事故があった場合でも、『事故有』区分を適用する期間は6年となります」。また、事故有を適用している期間中にさらに事故があれば期間は加算され、その上限が6年です。
保険を使うか、自腹で直すか — 判断の前に見ておきたい数字
「小さな修理で保険を使うと損」と言われますが、では実際の請求はどれくらいの規模なのでしょうか。料率機構の統計から、自家用乗用車(普通)の2024年度の実績を見てみます。
| 補償種目 | 契約台数 | 支払件数 | 支払件数÷契約台数 | 1件あたり保険金 |
|---|---|---|---|---|
| 対人賠償 | 18,247,652台 | 80,655件 | 0.44% | 約94.4万円 |
| 対物賠償 | 18,242,301台 | 484,867件 | 2.66% | 約40.0万円 |
| 車両 | 14,095,285台 | 865,329件 | 6.14% | 約52.0万円 |
| 人身傷害(実損払) | 18,065,730台 | 62,500件 | 0.35% | 約43.2万円 |
※料率機構『自動車保険の概況 2025年度版』第13表(2024年度)の契約台数・支払件数・保険金から本記事が算出。支払件数は補償種目ごとの集計で、1つの事故で複数の補償種目から支払われた場合は重複して数えられます。したがってこの比率は「契約の何%が事故を起こしたか」を示すものではありません。軽四輪乗用車の車両保険は契約11,929,824台に対し支払579,557件(4.86%)、自家用小型乗用車は9,116,671台に対し515,703件(5.66%)です。
いちばん動くのは車両保険で、支払件数は契約台数のおよそ6%、単純に割れば16台に1件の割合です。そして1件あたりは約52万円。修理費の中身も公表されています。
| 費目 | 車両保険 | 構成比 | 対物賠償 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|
| 部品費 | 195,634円 | 49.8% | 173,900円 | 41.7% |
| 工賃 | 91,081円 | 23.2% | 73,047円 | 17.5% |
| 塗装費 | 70,159円 | 17.9% | 59,788円 | 14.4% |
| 間接損害(代車料等) | — | — | 78,777円 | 18.9% |
| その他(消費税・諸費用) | 36,003円 | 9.2% | 31,110円 | 7.5% |
| 合計(認定損害額単価) | 392,877円 | 100% | 416,624円 | 100% |
※同 第27表(2024年度)。修理費は、自己または相手の過失分や免責金額等を差し引く前の金額です。
ここから読み取れるのは、保険で処理されている修理の認定損害額は1件あたり40万円前後が平均だということです。この規模になると、自腹で直すという選択肢を取る人は多くないでしょう。使うか自腹かで本当に迷うのは、平均よりずっと小さい数万円規模の損害のときに絞られると考えられます。
その数万円規模のときに比べるのは、次の2つです。
- 保険で受け取れる金額(修理費 − 免責金額)
- 今後の保険料の増加分(等級が3つ下がる影響 + 3年間「事故有」係数が当たる影響の合計)
2の金額は契約条件によって大きく変わるため、一般論では出せません。ただし多くの保険会社は「使った場合・使わなかった場合」の保険料試算を出してくれます。試算を見てから請求するかを決めるのが確実で、いったん保険を使う連絡をしても、支払い前なら請求を取り下げられるのが一般的です。車両保険そのものを付けるか・外すかの考え方は車両保険は必要かで解説しています。
※参考: 任意保険の普及率は2025年3月末時点で、自家用普通乗用車の対人賠償83.2%・車両保険64.3%、軽四輪乗用車は対人賠償77.9%・車両保険49.6%(料率機構 第18表。共済契約は含みません)。車両保険は加入率がおよそ半分から6割で、そもそも「使うかどうか」の判断が生じない契約も多いということになります。
等級は引き継がれる — 知っておきたいルール
保険会社を乗り換えても等級は引き継ぎ
等級は保険会社間の情報交換制度で共有されており、乗り換えでリセットはできません。高い等級は引き継げるのが一般的なので、等級を理由に乗り換えをためらう必要はありません。逆に、事故で下がった等級(1〜5等級のデメリット等級)も他社に引き継がれ、新規契約のふりをしてもいずれ判明します。ただし引き継ぎには満期日からの手続き期限が設けられており、共済など制度が異なる引受先との間では扱いが変わることもあります。乗り換える際は、切り替え前に新旧それぞれの引受先へ条件を確認してください。
家族への引き継ぎ
等級は配偶者や同居の親族に引き継ぐことができます(別居の子には引き継げないのが一般的)。たとえば親の20等級を同居の子に引き継ぎ、親は新規6等級で入り直す — という使い方ができ、家族全体の保険料を抑えられる場合があります。契約者が亡くなって車を相続した場合も、配偶者・同居の親族なら等級ごと契約を引き継げるのが一般的です(車の相続手続き)。
車を手放すときは「中断証明書」
車を手放して保険をやめるときは、中断証明書を発行してもらうと等級を最長10年間保存でき、再び車に乗るときにその等級で契約を再開できるのが一般的です。免許の自主返納を機に車を手放す場合も同じです。発行条件・申請期限・再開の手続きは中断証明書の完全ガイドで詳しく解説しています。
この記事の数字は「参考純率」のもの — 実際の保険料との距離
ここまで挙げてきた較差(5.62倍・1.32倍など)は、すべて参考純率における値です。参考純率と、実際に払う保険料の関係を最後に整理しておきます。
- 参考純率とは、料率算出団体が算出する純保険料率のこと。保険料率は「純保険料率」と「付加保険料率」から成り立っており、付加保険料率(保険会社が事業を行うために必要な経費などに充てられる部分)は各社が独自に算出します
- 保険会社は自社の保険料率を算出する際の基礎として参考純率を使用することができますが、その使用方法は各社が判断します。料率機構自身も「実際の料率区分は保険会社により異なります」と注記しています
つまり、この記事の較差は業界全体のリスク実態を示す物差しであって、あなたの保険証券に書かれた割引率そのものではありません。それでも意味のある物差しなのは、参考純率の算出が法律で縛られているからです。損害保険料率算出団体に関する法律第8条は、こう定めています。
料率団体の算出する参考純率及び基準料率は、合理的かつ妥当なものでなければならず、また、不当に差別的なものであつてはならない。
料率機構はこの3原則の中身を、合理的=「算出に用いる保険統計その他の基礎資料が、客観性があり、かつ、精度の高い十分な量のものであること」「算出が、保険数理に基づく科学的方法によるものであること」、妥当=「将来の保険金の支払いに充てられることが見込まれる純保険料率として、過不足が生じないと認められるものであること」、不当に差別的でない=「危険の区分や水準が、実態的な危険の格差に基づき適切に設定されていること」と説明しています。
等級による5.62倍の較差は、この「実態的な危険の格差に基づき適切に設定されている」という要請の結果として置かれた数字だ、ということになります。同じ考え方の背景には「リスクが高い契約には保険料を高く、リスクが低い契約には保険料を安くする」という給付・反対給付均等の原則があります。
なお参考純率は毎年度検証され、必要があれば改定されます。直近では2026年6月23日に平均14.4%の引上げが届け出られました(2027年1月以降に保険始期を有する契約を想定)。この改定の中身と、新設される運行特性区分については自動車保険の選び方で詳しく扱っています。
まとめ
等級制度の骨格は「無事故なら毎年1つ上がる、保険を使うと一度に3つ下がり、そのあと3年は同じ等級でも高いほうの係数が当たる」です。上がるのに3年かかるものが1回で消える非対称さが、この制度の要点になります。
そして料率機構の公表資料に照らすと、等級は保険料を決める料率区分の中で較差が最も大きい(約5.62倍)区分であり、同時に契約時の選択ではなく無事故の積み重ねでしか動かない区分でもあります。保険で処理されている修理の認定損害額は1件あたり40万円前後が平均なので、使うか自腹かで悩む場面はそう多くないはずです。悩むだけの規模の損害が起きたときに、保険会社に試算を出してもらってから決める — そして車を手放すときは中断証明書を取る。長期的な保険料に効くのは、結局この2つです。
補償内容の選び方は自動車保険の選び方、維持費全体の見直しは維持費の内訳と節約の考え方で解説しています。
※出典: 損害保険料率算出機構『自動車保険の概況 2025年度版』(2026年4月発行、2026年6月18日一部更新)、および同機構の自動車保険参考純率に関する公表資料。統計値は2024年度または2025年3月末時点のものです。等級の区分・係数・引き継ぎの条件は保険会社や改定時期により異なります。実際の判断の際は、契約中の保険会社の約款・重要事項説明書で必ず確認してください。









