車の個人売買・家族間の譲渡 — 引き継ぐ5つのものと、贈与税がかかる境目

友人から車を買う、親から子へ譲る、フリマアプリやオークションで個人から手に入れる — 販売店を通さずに車が動く場面は珍しくありません。ただし個人間の取引では、販売店なら店がやってくれる作業と確認が丸ごと当事者に残ります。
この記事では、個人売買・家族間の譲渡でつまずきやすい点を「取引の段取り」「引き継ぐ5つのもの」「税金の考え方」の3つに分けて整理します。名義変更そのものの必要書類と流れは車の名義変更のやり方で解説しているので、本記事は個人間ならではの論点を中心に扱います。
販売店で買うのと何が違うか
| 項目 | 販売店を通す場合 | 個人間 |
|---|---|---|
| 名義変更(移転登録) | 店が代行するのが一般的 | 当事者のどちらかが運輸支局・軽自動車検査協会へ行く |
| 書類の不備 | 店が事前に点検 | 窓口で初めて判明することがある |
| 車の状態 | 公正競争規約で表示項目が決まっている | 表示のルールはなく、現状のまま引き渡すのが基本 |
| 引き渡し後の不具合 | 保証や販売店の対応がある | 当事者間の話し合いになる |
| お金の精算 | 見積書・契約書で明示される | 取り決めをしなければ何も起きない |
販売店の中古車には走行距離・修復歴・保証などの表示ルールがあり、それ自体がチェックリストとして使えます(中古車の選び方)。個人間ではその後ろ盾がないぶん、確認と取り決めを自分で用意することになります。安く手に入る代わりに、点検・整備の状態を自分で見極める必要がある取引だと考えておきましょう。
取引の段取り
「車・書類・代金」をできるだけ同時に動かす
個人間で最も多いトラブルは、代金を払ったのに書類が届かない、車を渡したのに名義変更されない、という時間差から起きます。原則は代金の支払い・車の引き渡し・名義変更に必要な書類の受け渡しを同じ場面でそろえることです。
遠方でやむを得ず時間差が出る場合は、順番と期限を先に決めます。名義変更は新しい所有者の住所を管轄する運輸支局(軽自動車は軽自動車検査協会)で行うため、一緒に窓口へ行けるなら手続きの当日に精算するのが最も確実です。
引き渡し前に決めておくこと
| 決めること | ポイント |
|---|---|
| 売買代金と支払い方法 | 現金か振込か。振込なら着金確認までを引き渡し条件にする |
| 名義変更の期限と担当 | 道路運送車両法では所有者が変わった日から15日以内に移転登録を申請することとされている。どちらが窓口へ行くかを決める |
| 手続き費用の負担 | 普通車の登録手数料、車庫証明の証紙代、ナンバー代、必要書類の取得費など |
| 車の状態の扱い | 現状のまま引き渡すのか、引き渡し前に整備するのか。走行距離・修復歴・不具合について分かっていることを伝えたか |
| 自動車税・自賠責の精算 | 未経過分を金銭で調整するかどうか(後述) |
| 引き渡しの日と場所 | 公道を走るなら車検と自賠責が有効であることが前提(車検切れの車の扱い) |
金額が大きい取引では、これらを書面(売買契約書・譲渡書)にして双方が1通ずつ持っておくと、後から「言った・言わない」になりません。家族間でも、後年の相続や税務の説明で「いつ・いくらで・誰から誰へ」が残っていると役に立ちます。
買う側が引き渡し前に見ておきたいもの
- 車検証 — 所有者欄と使用者欄、有効期限、型式や初度登録年月。読み方は車検証の見方で解説しています
- 所有者欄がローン会社・販売店になっていないか — 所有権留保が残っていると、そのままでは名義変更できません(ローンが残っている車の売却)
- 自賠責保険証明書 — 有効期間が車検の残り期間をカバーしているか
- リサイクル券 — 預託済みかどうか(後述)
- 点検整備記録簿 — あれば整備の履歴が分かります
- 保管場所 — 普通車は名義変更に車庫証明が必要な地域が多く、先に取得しておく必要があります(車庫証明の取り方)
引き継ぐ5つのもの
車の所有者が変わるとき、動かさなければならないものは車検証だけではありません。次の5つを個別に処理します。
| 引き継ぐもの | 手続き先 | 放置するとどうなるか |
|---|---|---|
| ① 車検証の名義(移転登録) | 運輸支局 / 軽自動車検査協会 | 税金の請求・違反の通知が前の所有者に届く |
| ② 自賠責保険の契約者名義 | 加入している保険会社・代理店 | 満期案内や解約時の返れい金が前の契約者側の扱いになる |
| ③ 任意保険 | 加入している保険会社・代理店 | 補償の空白ができる / 等級を活かせない |
| ④ リサイクル預託金 | 手続きは不要(車に付いて移る) | 相当額の精算をしないと、預けたお金が戻らないまま |
| ⑤ 自動車税・軽自動車税 | 手続きは不要(課税は年度単位) | 払った側が払い損になる場合がある |
① 車検証の名義(移転登録)
普通車は運輸支局で移転登録、軽自動車は軽自動車検査協会で自動車検査証記入申請を行います。普通車では旧所有者の印鑑登録証明書(発行から3か月以内)・実印を押した譲渡証明書と委任状が必要で、軽自動車は申請依頼書で足りるのが一般的です(軽自動車検査協会の必要書類一覧に譲渡証明書・印鑑証明は含まれません)。手数料は普通車の移転登録が窓口700円・OSS 600円、軽自動車は無料です。必要書類の一覧は名義変更のやり方と売却時の必要書類にまとめています。
オンラインで完結させたい場合はワンストップサービス(OSS)も使えます(OSSの使い方)。管轄が変わる場合はナンバープレートも変わり、希望ナンバーを取ることもできます(希望ナンバーの取り方)。
② 自賠責保険の権利譲渡
自賠責保険は車に付いて回る保険で、車を譲っても契約自体は残ります。ただし契約者の名義は自動では変わりません。保険会社に「権利譲渡」の承認請求をして初めて名義が移ります。
ある保険会社の案内では、必要書類は自賠責保険証明書、権利譲渡用の承認請求書(譲渡人・譲受人の双方が押印)、権利譲渡を確認できる書類(所有者が変更された車検証のコピーなど)の3点で、郵送で受け付け、新しい証明書が届くまで3週間程度としています。会社ごとに書式や受付方法が異なるので、契約している保険会社の案内を確認してください。
名義変更をしないままでも保険の効力そのものは車に残りますが、満期の案内が前の契約者に届いたり、廃車時の解約返れい金の受取人が前の契約者側になったりします。自賠責の仕組みは自賠責保険の仕組みで解説しています。
③ 任意保険 — 補償の空白を作らない
任意保険は車ごとの契約なので、引き継ぎではなくそれぞれが自分で手当てするのが基本です。買う側は引き渡し日から補償が始まるように新規契約または車両入替の手続きを、売る側は車を手放したあとの扱い(次の車へ入替、または解約と中断)を決めます。
家族間では等級を動かせる場合があります。等級を引き継げるのは記名被保険者の配偶者、または記名被保険者かその配偶者と同居している親族への変更というのが一般的な条件で、配偶者は別居していても引き継げるとする会社が多い一方、別居の子には引き継げないのが通例です。親の高い等級を同居の子へ移し、親は新規で入り直すといった使い方ができます。詳しくは等級制度の仕組みを参照してください。
しばらく車に乗らなくなる側は、中断証明書を取っておくと等級を最長10年ほど保存できます(中断証明書の使い方)。補償内容の選び方は任意保険の選び方、車両保険を付けるかどうかは車両保険は必要かで解説しています。
④ リサイクル預託金
自動車リサイクル料金は原則として新車購入時に預託し、その車が最後に解体されるまで預けられたままになります。中古車として売買・譲渡する場合、預託金は車と一緒に次の所有者へ移ります。自動車リサイクルシステムの案内でも、中古車として売却するときは所有者が車両価値金額とリサイクル料金相当額を受け取り、リサイクル券を渡すという流れが示されています(2026年1月のシステム切替以降は紙の券の新規発行が停止されているため、券が無い車では自動車リサイクルシステム上での預託状況の確認がこれに代わります)。
つまり個人間でも、預託済みの車を譲るときはリサイクル料金相当額を代金に上乗せするのが本来の形です。買う側からすれば、その車を最後に廃車にする人がリサイクル費用を負担しないで済む権利を一緒に買っている、と考えると分かりやすいでしょう。
リサイクル券が手元に無い場合や紛失した場合でも、自動車リサイクルシステムのサイトで車台番号などから預託状況を検索し、印刷したものをリサイクル券の代わりに使えます。券自体の再発行はできません(既に発行されている紙の券はそのまま使えます)。最後に車を手放すときの扱いは廃車手続きガイドで解説しています。
⑤ 自動車税・軽自動車税の精算
自動車税・軽自動車税はその年の4月1日時点の所有者に1年分が課税されます。年度の途中で名義変更しても、税金の還付制度はありません(還付があるのは普通車を抹消登録=廃車にしたときだけで、軽自動車には月割制度そのものがありません)。詳しくは自動車税の納付ガイドを参照してください。
買取店との取引では未経過分を買取価格に上乗せする商慣行がありますが、個人間では取り決めがなければ何も起きません。売る側が1年分を負担したままになるか、買う側が「残り期間分を上乗せして払う」と合意するかは当事者次第です。金額は年額を12で割った月割相当で計算するのが分かりやすく、引き渡し月をどちらが負担するかまで決めておくと揉めません。
なお、翌年度以降の納付書は4月1日時点の車検証上の所有者に届きます。3月末までに名義変更が終わっていないと、前の所有者に請求が行くことになります。
税金① もらう側 — 贈与税
お金を払わずに車をもらった場合や、相場よりかなり安く譲ってもらった場合は、贈与税の対象になることがあります。
年110万円の基礎控除
贈与税(暦年課税)には、1年間に受けた贈与の合計から差し引ける基礎控除110万円があります。1年間にもらった財産の合計が110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要です。
車の場合、判断の基準になるのは購入時の価格ではなくその車の時価です。国税庁の財産評価基本通達では、一般動産の価額は原則として売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価し、それらが明らかでない場合は同種同規格の新品の小売価額から製造時からの償却費相当額を差し引いて評価するとされています。実務的には、同じ年式・型式・走行距離の中古車の相場が目安になります。
したがって、年式が古く相場が110万円を下回る車を家族から譲り受けるだけなら、贈与税の心配はまずありません。問題になるのは、新しい車や高額車を無償で受け取るケースや、同じ年に他の贈与も受けているケースです。
110万円を超えたときの税額
基礎控除を超えた部分に、次の速算表の税率がかかります。直系尊属(父母・祖父母など)から18歳以上(その年の1月1日時点)の子・孫が受けた贈与は「特例税率」、それ以外は「一般税率」です。
| 基礎控除後の課税価格 | 一般税率 / 控除額 | 特例税率 / 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% / − | 10% / − |
| 300万円以下 | 15% / 10万円 | 15% / 10万円(400万円以下) |
| 400万円以下 | 20% / 25万円 | |
| 600万円以下 | 30% / 65万円 | 20% / 30万円 |
| 1,000万円以下 | 40% / 125万円 | 30% / 90万円 |
| 1,500万円以下 | 45% / 175万円 | 40% / 190万円 |
| 3,000万円以下 | 50% / 250万円 | 45% / 265万円 |
| 3,000万円超 | 55% / 400万円 | — |
たとえば時価200万円の車を親から18歳以上の子へ無償で譲り、その年に他の贈与がない場合は、200万円−110万円=90万円が課税価格となり、特例税率10%で9万円が贈与税額です。申告と納税は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行います。
「安く売った」つもりでも贈与とみなされることがある
個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額が贈与とみなされます(みなし贈与)。土地や家屋以外の財産では、比較の基準になる時価は相続税評価額です。
「家族だから1万円でいいよ」と高年式の車を受け取ると、形式上は売買でも差額が贈与として扱われうる、ということです。相場からかけ離れた価格にする場合は、なぜその価格なのか(不具合がある、事故歴があるなど)を説明できるようにしておくと安心です。金額が大きいときや判断に迷うときは、税務署や税理士に確認してください。
税金② 渡す側 — 譲渡所得
車を売って代金を受け取った側には、譲渡所得の話が出てきます。ただし多くの場合は課税されません。
国税庁は、家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服など「生活に通常必要な動産」の譲渡による所得は課税されないとしています。日常の足として使っていた車を手放して得たお金は、原則としてこれに当たります。
一方、レジャー専用の車など生活に通常必要とはいえない自動車を売った場合は、総合課税の譲渡所得として計算します。計算式は「譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 50万円」で、特別控除50万円はその年の長期・短期の譲渡益の合計に対して適用されます。所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、その2分の1が総合課税の対象になります。
取得費は買ったときの価格から使用による減価分を差し引いた額で考えるため、実際には売却価格が取得費を下回って所得が出ないことも多くなります。ただし希少車などで買った値段より高く売れた場合は、上の計算が必要になります。高く売る方法そのものは車を高く売る方法で解説しています。
ケース別の考え方
| ケース | 押さえる点 |
|---|---|
| 親から子へ無償で譲る(同居) | 車の時価が年110万円以下なら贈与税はかからない。任意保険の等級は同居なら引き継げるのが一般的。名義変更は15日以内が原則 |
| 親から別居の子へ譲る | 贈与税の考え方は同じ。ただし等級の引き継ぎは配偶者以外は同居が条件のため、別居の子は原則新規契約になる |
| 夫婦間で名義を移す | 等級は別居・同居を問わず引き継げるとするのが一般的。名義変更には車庫証明が必要になる場合がある |
| 友人から相場より安く買う | 差額が大きいとみなし贈与の対象になりうる。価格の根拠を説明できるようにしておく |
| ローンが残っている車を譲る | 車検証の所有者がローン会社なら、完済して所有権解除をしないと名義変更できない(詳しくはこちら) |
| 亡くなった家族の車を引き継ぐ | 売買・贈与ではなく相続の手続きになる(車の相続手続き) |
| 譲り受けたあと引っ越す | 住所変更(変更登録)が別途必要(引っ越し後の車の手続き) |
名義変更しないまま渡すとどうなるか
「知り合い同士だから」と名義をそのままにするのは、渡した側にとって最もリスクの高い選択です。
- 自動車税の請求が届き続ける — 4月1日時点の車検証上の所有者に課税されます
- 駐車違反の通知が来る — 運転者が特定できない場合、車検証上の使用者に放置違反金の納付命令が及ぶことがあります(駐車違反の反則金と放置違反金)
- 事故のときに連絡や責任追及が及ぶおそれがある
- リコールや車検の案内が届かない — 新しい所有者に必要な情報が伝わりません
- 次の売却・廃車ができない — 名義が他人のままでは処分手続きが進みません
渡す側は、新しい車検証のコピーを受け取るまでが取引だと考えておきましょう。期限を決め、過ぎたら連絡する、というところまで最初に取り決めておくと確実です。
まとめ
- 個人間の取引では、代金・車・書類をできるだけ同時に動かす。時間差が出るなら順番と期限を先に決める
- 引き継ぐのは①車検証の名義②自賠責の契約者名義③任意保険④リサイクル預託金⑤自動車税の精算の5つ。①②は手続きが必要、④⑤はお金の取り決めが必要
- 自賠責は車に付いて残るが名義は自動で変わらない。保険会社への権利譲渡の承認請求が別途必要
- リサイクル料金は預託済みなら車と一緒に移るので、相当額を代金に上乗せするのが本来の形
- 自動車税は名義変更では還付されない。個人間では取り決めがなければ何も精算されない
- もらう側は年110万円の基礎控除。車の評価は購入価格ではなく時価。相場より著しく安い価格での譲渡は差額が贈与とみなされることがある
- 渡す側は、通勤用など生活に通常必要な自動車の譲渡による所得は課税されない
- 名義変更を放置すると、税金・違反・事故の連絡がすべて前の所有者に向かう。新しい車検証のコピーを確認するまでが取引
※本記事の税務の記述は、国税庁が公開するタックスアンサー(贈与税の計算と税率、著しく低い価額で財産を譲り受けたとき、生活用動産の譲渡による所得、総合課税の譲渡所得)および財産評価基本通達に基づく2026年7月時点の一般的な内容です。リサイクル料金の扱いは自動車リサイクルシステムの案内、自賠責の手続き例は保険会社が公開する案内によります。税制・手数料・保険各社の取扱いは変更されることがあり、個別の事情によって結論が変わります。実際の手続きにあたっては、運輸支局・軽自動車検査協会、契約している保険会社、および税務署や税理士など、それぞれの窓口で最新の内容を確認してください。









