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開発責任者は水平対向エンジンと比べた — スバル トレイルシーカーで、らしさはどこに置かれたか

公開: 2026-09-04 / 更新: 2026-09-04

クルマを知るのイメージイラスト

電気自動車が増えてくると、メーカーの個性はどこへ行くのか、という話になります。エンジンが無くなれば、エンジンで名前を売ってきた会社ほど困るはずだからです。

スバルはまさにその会社です。60年にわたって水平対向エンジンを積み続け、その理由として低重心を挙げてきました。そのスバルが2026年4月9日にBEVの「トレイルシーカー」を発表し、同社サイトの社員インタビュー「SUBARUびと」で開発ストーリーを2本公開しています。読むと、らしさをどこに置くかが組み替わっていました。

先に結論

  • 開発責任者がBEVでのらしさの例として挙げたのはAWD制御と低重心。しかも低重心のほうは、自社の看板である水平対向エンジンと比べる形で語られている(重心高の数値は資料に無い)
  • AWD制御の中身が変わった。挙動が出たあとに安定させる制御から、ドライバーの操作から次の動きを先読みして駆動力を配分する制御へ
  • その先読みで生まれた難しさを、担当したエンジニア自身がバランス取りという言葉で語っている。ドライバーの意志を立てるか、安全のための補正を効かせるかの切り替えである
  • 一方で、構造の多くはトヨタと共同開発したソルテラと共用されている。ただし資料は同じ段落でトレイルシーカー固有の構造部分にも触れており、どこまでが共用かは書かれていない
  • らしさは車体の側でも主張されている。発光式の六連星オーナメント、ワゴンスタイルの継承、デザインはアウトバックを受け継ぐ。逆に、予防安全パッケージはアイサイトではなくSUBARU Safety Senseである
  • 数字では一充電走行距離(WLTCモード・エコモード時)がFWD734km、AWD690km。同じET-HSでも20インチホイールを選ぶと627kmになる(差63km)

開発責任者が例に挙げたのは、AWD制御と低重心だった

開発ストーリーVol.1に登場するのは、開発責任者の井上正彦さんです(資料には、日付や部署名は取材当時の情報に基づく旨の注記があります)。井上さんはまず、よく受ける質問として、BEVになったらスバルらしさはどうなるのかを自分から挙げています。

よく「BEVにおいて、SUBARUらしさはどうなるの?」と質問をいただきます。

そのうえで、答えを例示していきます。1つはAWD制御です。

例えば、SUBARUが長年培ってきたAWD(All-Wheel Drive:全輪駆動)制御においては、BEVはモーターによって前後のトルクを緻密に制御できるため、より自在なコントロールが可能です。

続くのが低重心で、ここが読みどころです。スバルはこの説明を、自社の看板と比べる形で語っています。

また、BEVはバッテリーを車体の床下に配置するため、クルマ全体の重心が低いという特徴があります。低重心が特徴の水平対向エンジンと比べても、BEVはより低重心化を図れるため、走行時の安定感を一段と高めることができます。

水平対向エンジンは、スバルが60年にわたって積み続けてきた形式です。その理由として同社が挙げてきたのが低重心でした(なぜスバルは水平対向エンジンを積み続けるのか?60年続く「低重心」の設計思想)。その看板を比較対象に置いて、BEVのほうがさらに低くできると語っているわけです。井上さんはこの2つを挙げたあと、次のように結んでいます。

BEVにおいてもSUBARUらしさを磨き上げ、あらゆる環境下でも、誰もが意のままに操れる走りを実現できる

ここで2つ断っておきます。重心高が何ミリ下がったのかという数値は、参照した4つの資料のどこにも書かれていません。この記事で確認できるのは、スバルがそう語っているという事実までです。また、この2つは井上さんが例として挙げたものであって、資料がらしさをこの2つに限って数えているわけではありません。以下でAWD制御と低重心を先に扱うのは、当サイトの構成上の都合です。

AWD制御は、あとからではなく先に動くようになった

では、そのAWD制御は具体的に何が変わったのか。開発ストーリーVol.2には、車両環境開発部でAWD制御の開発を担当した若山綾那さんが登場します。若山さんが挙げているこだわりは、速さでも力強さでもありません。

「ドライバーが狙った通りのラインを気持ちよく走れること」

そのうえで、雪道のカーブで思ったより曲がらず、慌ててアクセルを緩めたりハンドルを切り足したりする場面を例に挙げ、こう語っています。

そうしたドライバーによる修正操作をできるだけ必要とせず、どのような路面状況でも、日常の運転と変わらない感覚で走れることを目指してAWDの制御を大きく進化させました。

そして、進化の中身が名指しで書かれています。制御が働くタイミングそのものが前へ動きました。

これまでは、加速や旋回をしてクルマの挙動が現れた“あと”に、その状態を安定させるよう駆動力配分を行っていましたが、新しい制御では、ドライバーのアクセルやハンドルの操作から、次のクルマの動きを先読みし、最適な駆動力配分を行います。これにより、ドライバーの操作に対して、より素早くクルマが反応できるようになりました。

従来は、クルマが滑ったり膨らんだりしてから駆動力を配り直していた。新しい制御は、ペダルとハンドルの動かし方から次に起きることを予想して先に配る。同じAWDでも、待って直すのか、読んで備えるのかという違いです。

なお、走りに手を入れた場所はAWD制御だけではありません。ニュースリリースの走行性能の項はサスペンションや電動パワーステアリングのセッティングも並べて挙げています。

先読みが生んだ難しさ — 意志を立てるか、補正を効かせるか

ここで終わらないのが、この資料の面白いところです。若山さんは続けて、先読みにしたからこそ生まれた難しさを自分で語っています。

開発で難しかったのは、ドライバーの操作意思をしっかりクルマの動きに反映させることと、クルマの挙動が不安定になりそうな場面では駆動力配分を補正して素早く安定させることの「バランス取り」でした。「ドライバーの意志を尊重する部分」と「安全のために駆動力配分を補正する部分」をどう切り替えるか丁寧につくり込む必要があり、何度も試験を重ねて最終調整を行いました。

言われてみれば当たり前ですが、先に読んで動くということは、ドライバーがまだ何も失敗していない段階でクルマが介入するということでもあります。読みが強すぎればお節介になり、弱すぎれば従来と変わらない。その境目をどこに引くかが、そのまま乗り味になります。

メーカーの資料は、ふつう良くなった点だけを並べても成立します。それでも同社は、両立させる先の難しさを担当者の言葉として載せています。若山さんは調整の進め方についてもこう語っています。

多くの開発メンバーが試乗して「1台のクルマとしてどうあるべきか」と意見を出し合ったことで、進化した制御が車両全体に反映され、完成度の高い走りが実現できました。

スバルは、専任のテストドライバーを置かず設計したエンジニア自身が評価すると説明している会社です(スバルに専任のテストドライバーがいない — 評価するのは設計するエンジニア自身)。開発メンバーが乗って意見を出し合ったというこの記述は、その体制と地続きに見えます。ここは当サイトによる読み取りです。

構造の多くはソルテラと共用、ただし固有の部分もある

走りの側でこれだけ作り込む一方、車体のほうはどうか。Vol.2のもう一人、トリム生産技術部の小島敬一郎さんが、はっきり語っています。

トレイルシーカーは、トヨタ自動車(以下、トヨタ)と共同開発したソルテラと多くの構造を共用しており、内装の組み立て工程づくりでは、トヨタのモノづくりの考え方を、SUBARUの製造拠点である矢島工場の工程にどう反映させるか検討を重ねました。そのうえで、トレイルシーカー固有の構造部分の組み立てについても、製造現場に過度な負担がかからないよう、工夫を行いました。

共用と、固有の構造部分の両方があることは資料に明記されていますが、その線がどこに引かれているかは書かれていません。共用そのものは、開発責任者も隠すどころか強みとして挙げています。

アライアンスを活用することで、投資を抑えながらこれだけのラインアップを揃えられていることは、SUBARUの大きな強みです。

ただし、共用は楽をすることと同じではありません。井上さんは生産の立ち上げについてこう語っています。

SUBARUとトヨタがそれぞれ調達する部品を組み合わせて車両をつくるのは今回が初めてであり、両社の生産システムが全く異なることから、生産開始までには多くの課題がありました。

小島さんの側も、量産準備として数千点におよぶ部品の識別情報を一つひとつ確認しながらシステムに登録したと語っています。同社の生産ラインの内装組み立て領域としては初となる、作業指示を部品に投影するプロジェクションマッピングの導入にも触れています。ここは、既存のラインで混流生産しBEV専用の設備を入れなかったEV専用の設備を、1つも入れなかった — ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」が変えなかったものとは、対照的なやり方です。

らしさは車体の側でも主張されている

ここで、共用したから車体には個性が無い、と読むのは早合点です。ニュースリリースは、外も内もはっきりブランドの話として書いています。

さらに、6つのシグニチャーランプや発光式の「六連星」オーナメント、「SUBARU」ロゴの入ったリヤゲートガーニッシュを採用することで、SUBARUブランドの存在感を強調しました。

また、ブルーを基調としたカラーリングとすることで、SUBARUらしいスポーティなイメージに仕上げました。

井上さんも、クルマの性格そのものを自社の系譜に置いています。

まさにSUBARUが長年培ってきたワゴンスタイルを継承し、普段の生活でもアウトドアでも使いやすい、オールラウンドなBEVです。デザインはアウトバックを受け継ぎ、欧州では「E-OUTBACK」として発売予定です。

その一方で、これまでスバルの看板だった名前が1つ、この車には出てきません。ニュースリリースの安全性能・運転支援機能の項に書かれているのは、予防安全パッケージ「SUBARU Safety Sense」です。カメラだけで止まろうとしたアイサイト(なぜスバルはカメラだけで止まろうとしたのか?アイサイト、人間の目に賭けたステレオカメラの物語)の名前は、参照した資料には出てきません。ほかにハンズオフで渋滞の疲れを軽減するAdvanced Drive、駐車時の運転操作を支援するAdvanced Parkが挙げられています。

つまり、共用したか作り込んだかで一本の線を引くことはできません。走りでもデザインでもらしさを主張しながら、安全の看板は別の名前になっている。らしさの置き場所が組み替わっている——というのが、資料を並べたときの見え方です。ここは当サイトによる整理です。

数字で見るトレイルシーカー

項目ET-SS(FWD)ET-SS(AWD)ET-HS(AWD)
全長×全幅×全高4845×1860×1675mm
ホイールベース2850mm
最低地上高210mm(社内測定値)
車両重量1900kg2010kg2020kg(オプション装着時の最大値2050kg)
フロントモーター最高出力167kW(227PS)/最大トルク268N・m
リヤモーターなし最高出力167kW(227PS)/最大トルク268N・m
一充電走行距離(WLTCモード)734km690km690km(20インチ装着時627km)
交流電力量消費率(WLTCモード)114Wh/km121Wh/km121Wh/km(20インチ装着時134Wh/km)
タイヤサイズ235/60R18235/60R18235/60R18(オプション235/50R20)

出典: スバル「SUBARU 新型「トレイルシーカー」を発表」(2026年4月9日)の主な諸元。一充電走行距離と交流電力量消費率はWLTCモードで、リリースの注記によれば一充電走行距離はエコモード時の数値です。20インチアルミホイールはET-HSのメーカーオプションで、諸元表で括弧付きの値が併記されているのもET-HSの列だけです。

AWDモデルはシステム最大出力280kW、0-100km/h加速4.5秒(いずれも社内測定値)。荷室は633L(ET-SSの可変フロアボード下段時。ET-HSは619L。ドイツの自動車工業会の測定方式であるVDA法での計測値)。AC100V/1500Wのアクセサリーコンセントを備えます。販売計画は月販250台です。

同じET-HSでも、ホイールを変えると航続が63km動く

この表でいちばん目を引くのは、実は駆動方式の差ではありません。ET-HSという同じグレードの中で、18インチのままなら690km、20インチのオプションを選ぶと627km。差は63kmです。電力量消費率も121Wh/kmから134Wh/kmへ動き、車両重量の最大値も2050kgに上がります。

AWDの690kmを起点にすると、FWDにすれば734kmへ44km伸び、20インチにすれば627kmへ63km縮む。同じ起点から見て、四輪駆動をやめるより、ホイールを1サイズ上げるほうが数字上は大きく動くことになります。もっとも、これはWLTCモードという決められた試験条件でのエコモード時の数値であり、リリース自身が実際の走行では気象・交通状況・運転方法によって変わると注記しています。

充電については、急速充電前にバッテリー温度を最適化するバッテリープレコンディショニングを採用し、リリースは低温時においても充電量10%から80%までの急速充電時間約28分を可能としたと書いています。ただしこの約28分に付く条件は、公式の資料どうしで書き方が違います。ニュースリリースの注記はマイナス10℃の環境下で150kW出力の急速充電器を使用した場合とし、商品サイトの注記は駆動用電池温度が約25℃の場合に150kW出力の急速充電器を使用した場合としています。外気温を基準にしているか、電池自体の温度を基準にしているかが違うため、この記事ではどちらか一方を代表値として扱いません。井上さんはVol.1で、急速充電器を使えば約30分で10%から80%までチャージできると、より丸い数字で語っています。

まとめ

  • 開発責任者がBEVでのらしさの例として挙げたのはAWD制御と低重心。低重心のほうは水平対向エンジンと比べる形で語られているが、重心高の数値は参照した4資料に無い
  • AWD制御は、挙動が出たあとに安定させる制御から、操作から先読みして配分する制御へ変わった(走りに手を入れた場所は制御だけでなく、サスペンションと電動パワーステアリングのセッティングも挙げられている)
  • 先読みにしたことで生まれた難しさを、担当エンジニア自身が意志の尊重と安全のための補正の切り替えとして語っている
  • 構造の多くはソルテラと共用。同じ段落に固有の構造部分への言及もあるが、線がどこにあるかは書かれていない
  • らしさは車体の側でも主張されている(六連星オーナメント/ワゴンスタイルの継承/アウトバックを受け継ぐデザイン)。一方で予防安全はSUBARU Safety Senseで、アイサイトの名前は参照した資料に出てこない
  • 数字では一充電走行距離(エコモード時)がFWD734km/AWD690km。同じET-HSでも20インチを選ぶと627kmで、690kmを起点にした変化幅はFWD化の44kmより大きい

エンジンが無くなるとメーカーの個性も消えるのか。スバルの答えは、共用か自前かで割り切るものではありませんでした。車体の構造はトヨタと共用し、そのうえで走りにも見た目にも自社の名前を貼っていく。そして長年の看板だった低重心は、捨てるのではなく比較対象として自分から持ち出しています。駆動力で走りの性格を作るという発想そのものは各社が持っていて、モーターでそれをやる例はなぜ三菱は「曲がる」を駆動力で作るのか?AYCからツインモーター4WDへ、四輪制御の物語でも扱っています。

この記事が扱っていないこと

  • 実車に乗った評価は含みません。この記事はスバルが公開している開発ストーリー2本、ニュースリリース、商品サイトの記述を読んだものです
  • 重心高の数値は資料にありません。水平対向エンジンとの比較は開発責任者の説明として語られているもので、何ミリ低いという数字は示されていません
  • ソルテラとの共用範囲の内訳は書かれていません。多くの構造を共用しているという記述と、固有の構造部分があるという記述の両方がありますが、どの部品がどちらかまでは資料に無いため、この記事でも分けていません
  • 先読み制御の仕組みの詳細も書かれていません。何を入力にどう予測しているかは、担当者の説明の範囲を超えて追えていません
  • SUBARU Safety Senseとアイサイトの機能差は比べていません。この記事が確認したのは、参照した資料に出てくる名前がどちらかという点だけです
  • 価格・グレード構成・納期は変わることがあります。購入を検討する場合は必ず販売店と公式サイトで最新の情報を確認してください

出典: 株式会社SUBARU「「トレイルシーカー」開発ストーリーVol.1 開発責任者が語る、その魅力」(SUBARUびと)、「「トレイルシーカー」開発ストーリーVol.2 若手エンジニアの奮闘」(同)、ニュースリリース「SUBARU 新型「トレイルシーカー」を発表」(2026年4月9日)、トレイルシーカー商品サイト。いずれも2026年9月4日に取得しました。Vol.1には日付や部署名は取材当時の情報に基づく旨の注記があります。発言の引用はすべて原文どおりで、井上正彦さんの発言はVol.1、若山綾那さんと小島敬一郎さんの発言はVol.2からのものです。らしさの置き場所という整理、および690kmを起点にした差63km・44kmという引き算は当サイトによるものです。

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