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スバルに専任のテストドライバーがいない — 評価するのは設計するエンジニア自身

公開: 2026-08-27 / 更新: 2026-08-27

クルマを知るのイメージイラスト

クルマの乗り心地やハンドリングは、最後は誰かがこれでよいと判断して世に出ています。硬さも、静かさも、ハンドルを切ったときの手応えも、数値だけで決め切れるものではないからです。では、その判断をしているのは誰なのでしょうか。

この記事が読むのは、SUBARUが公開しているコーポレートサイトの「SUBARUのエンジニア育成」のページです。会社が自社の開発体制を自分の言葉で説明した文書で、会社としての説明と、エンジニア個人の証言が並んでいます。第三者の取材記事ではありません。この会社が自社の仕事のやり方をどう書いたかとして読んでください。なおこのページに他社の開発体制についての記述はありませんので、当記事でもこの資料をもとに他社を語ることはしません。

先に結論です

  • SUBARUはこのページで『SUBARUには、専任のテストドライバーはおらず、開発段階でクルマを評価するのはすべて「エンジニア」です。』と書いています。いないのは評価する人ではなく、評価だけを担当する専門職です
  • 理由は工程の分け方にあります。同社は「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」という4つの行程を挙げ、「この行程を分業せず、同じエンジニアが一貫して取り組んでいるところにSUBARUの強みがあり」と説明しています
  • ただし専門領域そのものが無いわけではありません。同じページのレースの記述には「それぞれの専門領域から知見を結集し」とあります。分けないのは一人のエンジニアの中の工程で、専門は分かれたまま持ち寄る形です
  • 同社は「SUBARUは「ドライバーの評価能力以上のクルマはつくれない」と考えています。」とも書いています。評価を専門職に任せない以上、評価の質は設計するエンジニア自身の力に直結します
  • そこに置かれているのが2015年に始まった「スバルドライビングアカデミー」(SDA)。育てるのは評価能力だけでなく「評価能力とマネジメント力」で、目的には「組織の壁を越えたクルマづくり」も挙がっています
  • 必要な理由は具体的です。同社は「ドライバーが乗って感じた感覚的な違いは明らかでも、従来の計測方法では数値に表れないという現象が頻繁に起こります。」と書き、エンジニアは「A車とB車で段差を越える際、計測値上は同じであるにも関わらずA車の乗り心地の方がいいのはなぜか」という課題を例に挙げています
  • 狙いは感覚のままにしておくことではなく、違いを生むメカニズムを追って数値化できる領域を増やすことだと同社は書いています
  • レースも使われています。SDAのインストラクターが中心となり「若手従業員も多く参画」する形で、スーパー耐久のレース車両を開発しています

「専任の」テストドライバーという職種を置かない、と書いてある

まず、資料の一文をそのまま見てください。

SUBARUには、専任のテストドライバーはおらず、開発段階でクルマを評価するのはすべて「エンジニア」です。

ここで落としてはいけないのが「専任の」という限定です。走って評価する人がいないわけではありません。いないのは評価だけを担当する専門職であって、その役目は設計をしているエンジニア自身が引き受けている、という話です。テストドライバーがいないメーカー、と縮めてしまうと意味が変わります。

同社はこの一文に続けて、エンジニアが何をするのかをこう書いています。

お客様に喜んでいただける商品となるよう、実際に運転しながら「安心感や愉しさといった数値で表しにくい官能領域」をエンジニア自身が感じ取り、理論的に思考したうえで設計図面に落とし込みます。

感じ取るところから図面に落とすところまでが、同じ人の中でつながっている——というのがこの説明の骨格です。

「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」を分けない

同社はこの一続きを4つの行程として名付けています。

「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」――この行程を分業せず、同じエンジニアが一貫して取り組んでいるところにSUBARUの強みがあり、その能力をさらに磨き、より良いクルマづくりにつなげるために「スバルドライビングアカデミー」(以下、SDA)があります。

ここで気をつけたいのは、分けないと言っているのが一人のエンジニアの中の工程だということです。同じページの後半、レースについての記述には「それぞれの専門領域から知見を結集し」とあり、専門そのものは分かれたままです。専門を無くす話ではなく、感じ取った人と図面を引く人を同じ人にする話——というのが、当サイトによるこの資料の読み方です。

評価の質が、設計する人の力に直結する

同じページには、次の一文も置かれています。

SUBARUは「ドライバーの評価能力以上のクルマはつくれない」と考えています。

資料はこれを考え方として示していて、分業しない選択の代償だとは書いていません。ただ、評価専門の職種を置かないなら評価の質は設計するエンジニア自身の力に直結する——だからその力を育てる場が要る、という順序で読めます(この読み方は当サイトの整理です)。実際、同社はこの一文のすぐあとに、計測では出ない差の話とSDAの説明を続けています。

計測値が同じなのに、乗り心地が違う

なぜ人が乗る必要があるのか。同社の説明は具体的です。

一方、開発現場ではドライバーが乗って感じた感覚的な違いは明らかでも、従来の計測方法では数値に表れないという現象が頻繁に起こります。

SDAで学んだエンジニアは、その現象をこう例示しています。

クルマの動きや性能のわずかな違いを見極められるようになると、例えば「A車とB車で段差を越える際、計測値上は同じであるにも関わらずA車の乗り心地の方がいいのはなぜか」という課題に対して、従来の計測方法だけにとらわれず、違いが発生するメカニズムを深く追究することで真因が特定できるようになります。

ここで重要なのは、この話が数値では分からないから感覚で決める、で終わっていないことです。同社が書いている狙いは逆方向です。

SDAでは、トレーニングを通じて運転スキルを高め、違いを感じる感覚を研ぎ澄ましたエンジニアを輩出しています。彼らがその違いを発生させているメカニズムを深く追究することで、「乗って安心、愉しい」と感じる要素を数値化できる領域がハードのみならず制御ソフトにおいても増えていきます。それらを開発に織り込むことで、車種やパワーユニットを問わず「SUBARUらしい」と感じていただけるクルマに仕上げています。

つまり、感じ取る力を鍛える目的は感覚を数値の側へ持ち込むことにあります。人が感じた差の原因を突き止められれば、その差は次から測れるようになる——ここまでは資料の記述どおりです。そのうえで、測れるようになれば車種やパワーユニットが違っても同じ判断基準を持ち込めるという読み方は当サイトの整理です(資料は「車種やパワーユニットを問わず」という結果を書いており、なぜそうなるのかの理屈までは説明していません)。

2015年に始まった、社内のトレーニング

SDAがどういう位置づけのものかは、第1期生として参加したエンジニア本人の言葉で書かれています。

SDAが始まった2015年に、第1期生として参加しました。それ以前もSUBARUにはテストコースを走るライセンスを取得するための講習はありましたが、運転スキルや評価能力を高めるための体系立てられたトレーニングが必要だと感じており、SDA設立の話を聞いた際は真っ先に立候補しました。

2015年より前からあったのは、テストコースを走る資格を取るための講習でした。この証言が必要だと言っているのは「運転スキルや評価能力を高めるための体系立てられたトレーニング」で、運転の側と評価の側の両方が入っています。会社側の説明も「SDAで最上級の運転スキルの習得を通じて、評価能力とマネジメント力を高め」と、運転スキルを土台に置いた書き方です。

トレーニングのやり方にも、目的が反映されています。

クルマの動きを感じ取るポイントは人それぞれ違うため、トレーニングではインストラクターが同乗し、その人の感じ方をしっかりと理解したうえで、それぞれに合った説明をするように工夫しています。

感じ方が人によって違うことを前提に、教える側が受講生ごとに説明を変える。感覚と言葉を突き合わせる作業が、トレーニングの中身に組み込まれている形です。

会社側は、SDAの狙いをこう書いています。

SUBARUらしいクルマづくりを実現し続けるために、このようなエンジニアの人財育成に力を入れています。SDAのメンバーは、開発部門の様々な部署から集まっています。SDAで最上級の運転スキルの習得を通じて、評価能力とマネジメント力を高め、組織の壁を越えたクルマづくりに取り組んでいます。

ここで挙がっているのは運転スキルと評価能力だけではありません。マネジメント力と「組織の壁を越えたクルマづくり」が並んでいます。個人の技量を上げる話と、部署をまたいで動く話が、同じ場所の目的として書かれているわけです。

広がり方も、エンジニア本人の言葉で書かれています。「プログラム修了後は、受講生が自らの部署でトレーニングを企画したり勉強会を開催するなど、SDAで体得したことを伝承する活動も広まってきています。」——中央で教えて終わりではなく、戻った先で教える側に回る形です。

レースは、開発の一巡が速い場所として使われている

もう一つ、同じページに書かれているのがレースです。SUBARUはスーパー耐久(資料の注記によれば「市販車をレース用に改造した車両など、様々な規定でつくられたレースカーがクラス分けされて競う耐久レース」)に参戦しており、その車両開発は「SDAのインストラクターが中心となり、若手従業員も多く参画しています」。理由の書き方が独特です。

レースでは、クルマづくりの一連の流れが通常の量産車開発では考えられないようなスピードのなかで、「走る・曲がる・止まる」といった性能の良し悪しをより鮮明に感じとり、車両を開発しなければなりません。

資料が挙げているのは一連の流れが速いことと、その中で性能の良し悪しをより鮮明に感じ取れることです。ここで語られているのは開発の進み方であって、順位や勝敗の話は出てきません。

続く一文が、この記事の見立てにいちばん効いてきます。

課題に対して担当者だけが取り組むのではなく、それぞれの専門領域から知見を結集し、課題解決に向けて積極的に意見を言い合っている様子は、正にこれからの車両開発に必要なことだと感じます。

専門領域は分かれているのです。分業しないというのは専門を無くすことではなく、担当者ひとりに閉じないこと——というのがここでの言い方になっています。冒頭の「この行程を分業せず」(一人の中で工程を分けない)と、こちらの「それぞれの専門領域から知見を結集し」(組織では専門を持ち寄る)は、向きの違う2つの話です。

資料はこの段落を、次の一文で締めています。

「レースという過酷な条件で」かつ「部署の垣根を越えて」1台のクルマをつくり上げることはメンバーのエンジニアとしての成長につながっており、これらは量産車における性能や品質を一層高めることにもつながっていると考えています。

「部署の垣根を越えて」は、レースだけの話ではありません。すでに見たとおり、会社側はSDAそのものの目的にも「組織の壁を越えたクルマづくり」を挙げています。

この記事が扱っていないこと

念のため、資料の範囲を明示しておきます。

  • 他社の開発体制について、この資料は何も書いていません。他社が専任のテストドライバーを置いているかどうかについても記述がなく、当記事では扱いません
  • SDAの規模(受講人数・期間・カリキュラム・修了者数)は、この資料には記載がありません。分かるのは開始年(2015年)と、メンバーが開発部門のさまざまな部署から集まること、修了後に各部署で伝承が広がっていることまでです
  • スーパー耐久の参戦年・クラス・成績も、この資料には書かれていません
  • この記述は会社が自社を説明した文書です。実際の運用がどこまで徹底されているかを、外から検証したものではありません

まとめ

  • SUBARUの公式ページには「専任のテストドライバーはおらず」と書かれている。いないのは評価する人ではなく、評価だけを担当する専門職である
  • 同社は「乗って」「感じて」「考えて」「物理にする」の4行程を分業しないことを強みとして挙げている。分けないのは一人のエンジニアの中の工程で、専門領域は分かれたまま(同じページに「それぞれの専門領域から知見を結集し」とある)
  • 同社は「ドライバーの評価能力以上のクルマはつくれない」とも書いている。評価を専門職に任せないなら、評価の質は設計する人の力に直結する
  • そこに置かれたのが2015年開始のスバルドライビングアカデミー(SDA)。育てるのは「評価能力とマネジメント力」で、目的には「組織の壁を越えたクルマづくり」も挙がる。修了後は自部署で伝承する
  • 狙いは感覚のままにすることではなく、計測値に表れない差の原因を突き止めて数値化できる領域を増やすこと
  • レースについて資料が挙げているのは、一連の流れが速いことと性能の良し悪しを鮮明に感じ取れること、そして「部署の垣根を越えて」つくり上げることである

数値に表れない感覚を、どうやって設計の言葉に置き換えるか。この主題にいちばん近いのはマツダ ロードスターの人馬一体の物語で、合言葉を測れる指標へ翻訳していく話です。同じSUBARUが、センサーの方式を絞り込んだうえでフィーリングの作り込みを自分たちで抱えた例がアイサイトの物語。エンジン形式のトレードオフを引き受け続けた話は水平対向エンジンを積み続ける理由にまとめています。

※本記事は、株式会社SUBARUが公開するコーポレートサイト「SUBARUのエンジニア育成」(2026年8月取得)の記述に基づきます。引用はすべて同ページの原文で、会社としての説明と、同ページに掲載されたエンジニア個人の証言が含まれます。一人のエンジニアの中の工程と、組織の専門領域とを分けて読む整理、評価能力と育成を順序として読む整理、および数値化と車種横断の一貫性を結び付ける読み方は、いずれも当サイトによるもので、資料に書かれた表現ではありません。

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