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EV専用の設備を、1つも入れなかった — ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」が変えなかったもの

公開: 2026-08-30 / 更新: 2026-08-30

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電気自動車の話は、たいてい足したもので語られます。何kWhの電池を積んだ、何km走る、何秒で加速する。ところが2026年2月2日に発売されたダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」の公式資料には、走行性能・航続距離・外部給電・予防安全と、足したものの章がきちんと並んでいます。そのなかで荷室と工場の2つだけが、逆の書き方をされていました。

荷室の寸法、最大積載量(350kg)に変更がないため、ガソリンモデルからの乗り換えもスムーズ

ただしこの一文には注記が付いていて、※e-アトレーは寸法の一部、最大積載量が異なります。とあります。350kgの話は e-ハイゼット カーゴのものです。

そして生産の説明には、こう書かれています — 「メインラインでの混流生産」、そしてBEV専用設備なし。電気自動車を作るのに、電気自動車のための設備を入れなかった、と読めます。

この記事は、ダイハツが公開しているニュースリリースと技術広報資料の2点だけを読んで、この荷室と工場の2点を追いかけます。ほかの章(走行性能・航続距離・外部給電・予防安全)は足したものの話なので、記事の後半でそのうち2つに触れます。

先に結論です

  • e-ハイゼット カーゴの荷室と最大積載量は変えなかった — ダイハツは「最大積載量350kgを確保し、積載性と使い勝手の良さを継承」と書き、資料には「荷室の寸法、最大積載量(350kg)に変更がないため、ガソリンモデルからの乗り換えもスムーズ」とある(同じ枠の注記は「※e-アトレーは寸法の一部、最大積載量が異なります。」)
  • 工場のラインも変えなかった — 技術広報資料の生産の考え方は「メインラインでの混流生産」(そこにBEV専用設備なしと添えられています)と「少量多品種の特装車エリア活用」(同じくバッテリー搭載と添えられています)の2枚看板で、リリースは「BEV専用設備を導入することなく、既存ラインでガソリン車の他車種と混流生産を実現しました。」と説明している
  • 変えたのは床下と後輪の軸上 — 薄型の36.6kWhバッテリーを床下へ、モーター・インバーター・減速機を一体化した「e Axle」を後輪駆動軸上へ置き、そのために「ボデー・サスペンションを新たに設計」した
  • 航続距離では正面から競っていない — 一充電走行距離は257km(WLTCモード・国土交通省審査値)。同じページでダイハツは夏 約170km・冬 約140kmという自社の走行パターンの数字を出し、軽商用バンユーザーの79%が1日100km未満というデータを並べて「約8割以上の走行距離をカバー」と書いている
  • AC100V・1500Wのコンセントが全車標準装備 — 非常時給電システム付きで、急速充電インレット(CHAdeMO規格)も全車標準。V2H機器を用意すれば家へ給電できる
  • 電動化の試作は1966年から — 資料の年表は1966年のコンパーノバン EV試作車第1号から始まり、当時の社長の言葉が添えられている

変えなかったもの その1 — 荷室と、350kgという数字

軽自動車の商用バンで最初に見られるのは、荷物がどれだけ積めるかです。電気自動車にすると、床下に電池の箱が入ります。ふつうに考えれば、荷室の床が上がるか、積める重さが減るか、どちらかが起きそうなところです。

ダイハツの発表資料は、そこを最初に否定します。

最大積載量350kgを確保し、積載性と使い勝手の良さを継承

技術広報資料のほうは、もっと実務的な言い方でした。

荷室の寸法、最大積載量(350kg)に変更がないため、ガソリンモデルからの乗り換えもスムーズ

読者が乗り換える相手はガソリン車ですから、寸法が1つでも変わると荷台の道具や棚が入らなくなります。この一文は性能の自慢ではなく、買い替えのときに何も測り直さなくていいという宣言として置かれています。実際の数字も、e-ハイゼット カーゴ 4シーターで荷室長1,005mm・荷室幅1,410mm・荷室高1,250mmと、ベース車の値がそのまま並んでいます(いずれも技術広報資料の記載。荷室長・幅は乗車人数で変わります)。

なお、この節が置かれた技術広報資料のページの表題は「好評なベース車同等以上の利便性と積載性」で、同等ではなく同等以上です。同じ章の次のページは予防安全機能の刷新(進化したステレオカメラ、横断する自転車や交差点右折時の対向車の検知)に充てられていて、足した装備もきちんと並んでいます。変えなかったと書かれているのは、荷室の寸法と積載量のところです。

ここは電池をどこに置いたかで解いています。リリースの表現は「部品配置の見直しやボデー・サスペンションを新たに設計することで、室内スペースを変えることなく大容量バッテリーを搭載。」でした。室内を削って電池を置いたのではなく、電池が入る場所を作るために骨格とサスペンションを引き直したということになります。

変えなかったもの その2 — 工場のライン

もう1つ変えなかったものがあります。作る場所です。

同工場で長年取り組んできた軽乗用車と軽商用車に加え、少量多品種の特装車を生産する技術とノウハウを生かし、BEV専用設備を導入することなく、既存ラインでガソリン車の他車種と混流生産を実現しました。

技術広報資料の「生産の考え方」のページは、この方針を2つの見出しで示しています。「メインラインでの混流生産」(そこにBEV専用設備なしと添えられています)と、「少量多品種の特装車エリア活用」(同じくバッテリー搭載と添えられています)。同じページの上には「ミゼットから続く軽商用車づくりのDNA」という一文と、1960年の前橋製作所の白黒写真が置かれています。

ここが、この記事でいちばん面白かったところです。ダイハツの軽商用車は、ダンプ・テールリフト・保冷/冷凍車・デッキバンといった特装車を数多く抱えていて、技術広報資料は「4シリーズ全17種の特装車」と書いています。特装車は1台ずつ内容が違うので、ラインの流れから外して手をかける場所が要ります。その少量だけ違うことをする場所に、電池の搭載を置いた — 資料の書き方をそのまま読むと、そう読めます。

専用ラインを建てないという選択は、そのまま値段に効きます。この節が置かれているページの表題自体が「高品質で良品廉価なクルマづくり」で、ダイハツが軽自動車について繰り返し使ってきた言葉です。生産はダイハツ九州株式会社 大分(中津)第1工場(生産能力23.0万台/年)で、ハイゼット トラック・ハイゼット カーゴ・アトレー・ムーヴ キャンバス・各種特装車両などと同じ場所です。販売目標は月間300台(2車種合計)と発表されています。

では、何を変えたのか — 床下と、後輪の軸の上

新しく作ったのは、BEVシステム「e-SMART ELECTRIC」です。リリースはその出自をこう書いています。

スズキ株式会社とダイハツが培った小さなクルマづくりのノウハウと、トヨタ自動車株式会社の持つ電動化技術を組み合わせ、3社で共同開発したBEVシステム

構成は2つです。モーター・インバーター・減速機を一体化した「e Axle」を後輪駆動軸上に、36.6kWhの薄型リチウムイオンバッテリーを床下に。電池の種類はリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)で、リリースは「安全性が高い」と紹介しています。

置き場所の効果として挙げられているのは、走りの話でした。

薄型大容量バッテリーを床下に配置することで、従来のガソリン車よりも低重心となり、操縦安定性が向上し、荷崩れなども防止可能

荷崩れが出てくるのが商用車らしいところです。後輪駆動軸上のe Axleについても、同じ向きの説明が続きます。

後輪駆動軸上に配置した「e Axle」により、多積載時や登坂時でも、後輪駆動の高いグリップ力による力強い発進とスムーズな加速を実現

最大トルクは126N・m。荷物を積んで坂を上がる場面が、性能の説明の主語になっています。乗用のEVでよく見る0-100km/h加速ではなく、技術広報資料が載せているグラフも0-200m加速時間でした。停まっては走る配達の仕事に合わせた物差しという読み方は、当サイトによる整理です。

正面から競わなかったもの — 航続距離

一方で、この車が数字で押していない項目もあります。航続距離です。

一充電走行距離は257km(WLTCモード・国土交通省審査値)。ダイハツはこれを「軽商用BEVバンNo.1」と紹介していますが、リリースの注記には「電気自動車(BEV)のうち、軽貨物自動車でNo.1。2026年2月現在。ダイハツ調べ。自社および他社にも同数値の車があります。」(技術広報資料側の注記は「2026年2月時点。ダイハツ工業(株)調べ。他社にも同数値の車があります。」)とあり、同数値の車があることまで自分で書いています。乗用のEVで見かける400km、500kmという数字とは、そもそも土俵が違います。

面白いのは、その隣に置かれた2つのグラフです。ダイハツは自社の走行パターン(市街地)での季節ごとの航続距離を、そのまま出しました。

  • 春秋(25℃・空調なし)— 約300km
  • 夏(30℃・空調あり)— 約170km
  • 冬(5℃・空調あり)— 約140km

そして左側には、軽商用バンユーザーの1日あたりの走行距離が並びます。0〜50kmが54%、50〜100kmが25%、合わせて79%。見出しは「航続距離が短くなりやすい夏・冬でもお客様の約8割以上の走行距離をカバー」です(数値・グラフはいずれもダイハツ調べ)。

つまりこの資料は、もっと走りますではなくこれで足りますという順序で書かれています(この言い換えは当サイトによるものです)。冬の約140kmという、ふつうならカタログに出したくない数字を先に出し、そのうえで使う側の実際の走行距離と突き合わせる。距離を伸ばすには電池を増やすしかなく、電池を増やせば重さと値段が増えて、変えないと決めた350kgと良品廉価に跳ね返ります。どこで競わないかを決めることも設計のうち、という読み方は当サイトの整理です。

足りない場合の手当ても用意されていて、急速充電は「電欠ランプ点灯から約50分で充電率80%」(バッテリー温度25℃・50kW出力の急速充電器の場合)と説明されています。

コンセントが全車標準で付いている

もう1つ、商用EVならではの装備があります。AC100V・1500Wのアクセサリーコンセントが全車標準装備で、非常時給電システム付き。付属の外部給電アタッチメントを使うと、ドアとドアガラスを閉めたまま車外へ電源コードを引き出せます。急速充電インレット(CHAdeMO規格)も全車標準で、V2H機器を用意すれば家へ電気を送ることもできます(V2H機器は別途購入が必要)。

技術広報資料が「BEVの付加価値」として並べた3つは、人にやさしい/地球にやさしい/財布にやさしいでした。仕事の道具を現場で充電できることと、停電したときに電気が取り出せることが、同じ装備の表と裏になっています。車から実際に何Wまで取れるのかという一般論は、災害時、車から電気は何W取れるのか — 定格9,000Wの給電器でも、100Vのコンセント1口は1,500Wで整理しています。

1966年の試作車と、当時の社長のひとこと

技術広報資料には「ダイハツの電動化の研究と蓄積の歴史」という年表のページがあります。1966年のコンパーノバン EV試作車第1号から始まり、1970年の大阪万博 会場用EV、1971年の新聞配達用「DBC-1」、1972年のハイゼットトラックEV、1994年のハイゼットバンEV、2003年のムーヴFCV、2005年のハイゼットカーゴHV、2012年のハイゼットカーゴEV(実証実験)と続きます(1975年のハローBC、1995年のミニスウェイなども載っており、ここに挙げたのは一部です)。

その年表の横に、当時の社長の言葉が置かれています。

我が社の作る車だけでも排出ガスと騒音のない車にできないか・・・

写真に添えられた表記は小石社長(当時)です。1966年の試作第1号から、量産BEVの発売まで60年かかった計算になります(1966年と2026年からの当サイトの計算)。リリースも「1960年代には他社に先駆け電気自動車を開発し、商用車の電動化にも積極的に取り組んできました。」と書いています。なお以下に出てくる65年前・約70年間はダイハツが別のページで使っている数字で、いま挙げた60年(試作第1号からの当サイトの計算)とは起点が違います。

開発コンセプトのページは、この2つを足し算の形で示していました。「約70年間つづけてきた 軽商用車生産の自信」と「65年前から挑戦してきた 環境対応の知見」を並べ、その先に「暮らしを守る働く車」を置く、という組み立てです。ダイハツの商用車づくりの出発点である1957年のミゼットについては、なぜダイハツは「小さいクルマ」一筋なのか?1907年創業、三輪トラック・ミゼットの物語にまとめています。ガソリンのハイゼットが同じジャンルのライバルとどう違うかは、キャリイ vs ハイゼット — 65年前、2社は軽トラックを正反対に定義していたで読めます。

この記事が扱っていないこと

  • ガソリン車との価格差・維持費の比較はしていません。 e-ハイゼット カーゴは2シーター・4シーターとも3,146,000円、e-アトレー RSは3,465,000円(いずれもメーカー希望小売価格・消費税込み)ですが、比較対象となるガソリン車の価格は今回参照した2つの資料に載っていません
  • 補助金の額は書いていません。 技術広報資料はクリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金などに触れつつ、「「e‐ハイゼット カーゴ」「e‐アトレー」の補助額は現時点で決定していない(2026年2月現在)」と注記しています
  • 実際に走らせた評価ではありません。 本記事はダイハツが公開している資料を読んだものです。加速・静粛性のグラフは同社の社内測定値です
  • 他社の軽商用EVとの比較はしていません。 ダイハツ自身が「他社にも同数値の車があります」と注記しているとおり、No.1という表現は同社の調べによるものです

まとめ

  • ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」は2026年2月2日発売。BEVシステム「e-SMART ELECTRIC」はスズキ・ダイハツ・トヨタの3社共同開発
  • e-ハイゼット カーゴの荷室の寸法と最大積載量350kgは、ベース車から変えていない。資料は「ガソリンモデルからの乗り換えもスムーズ」という言い方でそれを説明する(e-アトレーは寸法の一部と最大積載量が異なると注記されている)
  • 工場も変えていない。大分(中津)第1工場の既存ラインでガソリン車と混流生産し、資料の表記でBEV専用設備なし。電池の搭載には少量多品種の特装車エリアを使う
  • 変えたのは床下(36.6kWhの薄型LFP電池)と後輪駆動軸上(e Axle)で、そのためにボデーとサスペンションを新設計した
  • 一充電走行距離257km(WLTCモード・国土交通省審査値)に対し、ダイハツは夏 約170km・冬 約140kmとユーザーの79%が1日100km未満を並べる。距離を伸ばすのではなく足りることを示す構成になっている
  • 電動化の試作は1966年のコンパーノバンEVから。当時の社長の言葉は「我が社の作る車だけでも排出ガスと騒音のない車にできないか・・・」

出典: ダイハツ工業株式会社「ダイハツ、初の量産BEVとなる「e-ハイゼット カーゴ」、「e-アトレー」を発売」(2026年2月2日ニュースリリース)、および同社 技術広報資料「軽商用車「e-ハイゼット カーゴ」」(2026年2月2日・PDF)。走行距離・加速・静粛性の数値、荷室寸法、シェア、No.1表記はいずれも同社の調べまたは社内測定値です。1966年から60年という計算、0-200m加速を配達の仕事に結び付けた読み方、「どこで競わないかを決める」という整理は当サイトによるものです。価格・補助金・装備は変更されることがあるため、購入検討の際はダイハツの商品情報および販売会社でご確認ください。

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