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「ハイト系」を作った初代から30年、ムーヴは7代目でスライドドアを選んだ

公開: 2026-09-12 / 更新: 2026-09-12

クルマを知るのイメージイラスト

2025年6月5日、ダイハツが軽乗用車「ムーヴ」をフルモデルチェンジしました。ニュースの見出しになったのは、サブタイトルにもある「スライドドアを採用し、全方位で軽の魅力を進化」です。7代目にして初めて、ムーヴの後席ドアが横にスライドするようになりました。

ダイハツが同じ日に公開した技術広報資料(新型ムーヴの車両概要・32ページ)を開くと、少し意外な構成になっています。新型車の話が始まるより前に、ムーヴという車がどう扱われてきたかと、周りの市場がどう動いたかのページが置かれているのです。ドアの形が変わった理由を、ダイハツは自分でそこに書いています。

先に結論です

  • ムーヴは1995年に「ダイハツ初のハイト系軽乗用車」として生まれた、そのカテゴリーを作った側の車です(資料の年表の言い方。注記は「ダイハツ初、軽初は当該モデル発売当時 ダイハツ調べ」)
  • 資料は新型の説明に入る前に、軽乗用車の主流がハイト系からスーパーハイト系へ移ったことと、スライドドア車の比率、そしてムーヴに乗る人の年齢層の変化——3つのグラフを並べます
  • そのうえで7代目は、後席スライドドアを全グレードに標準採用しました。ダイハツはこれを「ムーヴとして初めて採用」と書いています
  • 一方で初代から受け継いだものも明記されています。縦型のリヤコンビネーションランプと、135万円(税込)からという価格の線です

この資料自体は、章立ての第Ⅲ項を「スライドドアや充実装備による、利便性・快適性の向上」と題していて、32ページの大半はデザイン・装備・走りの説明に充てられています。それでも装備の話に入るより前に、市場が動いたページが置かれている——本記事が面白いと思ったのはその順番です。以下、資料とニュースリリースの原文で追っていきます。

ムーヴは「ハイト系」を作った側だった

資料は「ムーヴとは」という見出しから始まり、初代(1995年〜)から6代目(2014年〜)までの年表を1ページに並べます。初代に添えられた説明が「ダイハツ初のハイト系軽乗用車」です。ページの下には「※ダイハツ初、軽初は当該モデル発売当時 ダイハツ調べ」という注記があります。

年表に並ぶ世代はこうなっています(各世代に短い説明が添えられており、以下は資料の表記です。紙面は上下2段の千鳥配置になっているため、ページ画像で2代目の欄が2行であることを確認したうえで割り当てました)。

  • 初代(1995年〜) — ダイハツ初のハイト系軽乗用車。1997年カスタムモデル追加
  • 2代目(1998年〜) — 新規格対応、衝突安全性向上
  • 3代目(2002年〜) — インテリジェント触媒、レーダークルーズコントロール採用
  • 4代目(2006年〜) — 流麗ワンモーションシルエット、KFエンジン・CVT採用
  • 5代目(2010年〜) — エコアイドル採用、低燃費化。2012年のマイナーチェンジで〈軽初〉の予防安全装備「スマートアシスト」搭載
  • 6代目(2014年〜) — 軽量高剛性ボディ骨格構造採用、後方誤発進抑制制御機能追加

2代目の「新規格対応」は1998年10月の軽自動車規格の改定を指します(枠そのものの話は軽自動車の規格はなぜ全長3.4m・660ccなのか?1949年から動いてきた「枠」の物語にまとめています)。5代目の途中で載った「スマートアシスト」が近年どこまで増えたかは、当サイトでも「第3のエコカー」ミラ イースは、何を積み上げて燃費を上げたのか — ダイハツが2011年に並べた細部と、今日の一部改良で触れています。

ニュースリリースはこの30年をこう要約しています。

「ムーヴ」は1995年の誕生以来、30年にわたり低燃費・お求めやすい価格はもちろん、基本性能や先進装備などのお客様が軽自動車に求める普遍的な要素を進化させ続け、次代を切り開いてきたダイハツの基幹車種です。

累計販売台数は資料・リリースとも340万台を超えたと書かれています(注記は「ダイハツ調べ。2025年3月末時点。累計販売台数はムーヴ・ムーヴカスタムのみ」)。

資料が新型より先に見せるのは、市場が動いたグラフ

年表の次に来るのが「取り巻く環境の変化」という見出しのページです。ここで3枚のグラフが続きます。

1枚目は軽乗用車のタイプ別販売比率を2000年から2024年まで積み上げた帯グラフで、見出しには軽自動車マーケットの主流が「ハイト系」から「スーパーハイト系」へ移った、という趣旨が書かれています。タイプの区分は「軽キャブワゴン」「軽SUV」「2BOX」「ハイト」「スーパーハイト」の5つ。出典は「全軽自協データをもとにダイハツ調べ」です。

ここが読みどころだと思います。ムーヴが作ったのは「ハイト」のほうで、そのハイトの帯が、より背の高い「スーパーハイト」に押されていく様子を、ダイハツが自分の新型発表資料の冒頭に置いているわけです。背の高い箱がどう増えてきたかという流れ自体は、なぜ日本の軽は「背の高い箱」ばかりになったのか?ワゴンRからN-BOXへ、上に伸びた30年の物語で別途まとめています。

2枚目は同じ帯グラフに「軽乗用車スライドドア車比率」の線を重ねたもので、「約6割」という数字が添えられています。見出しは、利便性に加えて子どもや年配の人が安全・安心に乗り降りできるスライドドアが定番化した、という内容です。

この書き方には注目しておきたい点があります。スライドドアがここで利便性の装備としてだけでなく、乗り降りの安全の話として置かれていることです。狭い駐車場で隣の車にドアをぶつけない、という便利さの話に留まっていません。

もうひとつの変化は、乗っている人が歳を取ったこと

3枚目の図が、いちばん意外でした。「初代」から「6代目」までを並べ、そこに「若年」「子育て」「子離れ」というラベルを添えて、マーケットに合わせてムーヴを愛用している客層も変化した、という趣旨の見出しが立っています。

市場のシェアが動いたという話と、同じ人が30年ぶん歳を取ったという話は別のことです。資料はその両方を並べたうえで、7代目のターゲットを設定しています。リリースの言い方はこうです。

7代目となる新型「ムーヴ」では、多くの消費カルチャーを経験してきた目利きの世代、中でも合理性とこだわりをもって商品を選ぶ「メリハリ堅実層」をターゲットに設定。

技術広報資料のほうは同じ層を「多くの消費カルチャーをけん引してきた目利きの世代」「商品価値とコストのバランスに厳しい相場観をもつ『メリハリ堅実層』」と、リリースとは少し違う語で書いています。その資料側には、この層の声として想定された短いフレーズも並んでいます。「スイスイ走れて運転が楽しい」「広すぎず、狭すぎず、ちょうど良い」「乗り慣れていて落ち着く、軽の定番」といった言葉に混じって、「予算は150万円以下」という一行が入っています。後で出てくる価格の話につながる部分です。

コンセプトは「今の私にジャストフィット 毎日頼れる堅実スライドドアワゴン」。このコンセプト文に「スライドドアワゴン」という語が入っている点が、今回の世代交代の性格をよく表しています。

そして、ムーヴとして初めてスライドドアが付いた

リリースの該当箇所を、そのまま引きます。

近年ニーズが高まっているスライドドアをムーヴとして初めて採用しながら、スタイリッシュなデザインを実現、「もう一度、心が動き出す。MOVE ON.」というキャッチコピーのように、お客様の心を突き動かすクルマとしました。

ここで「ムーヴとして初めて」と書かれているので、当サイトが歴代のドアを調べて推測する必要はありません。ダイハツ自身が初採用だと明記しています。

採用の範囲についても、リリースは見出しで区別して書いています。

  • 後席スライドドアそのもの — 「誰でも乗り降りしやすい後席スライドドアを全グレードに標準採用」
  • パワースライドドア — RS・G・Xグレードに設定

つまり「全グレード」なのはスライドドアであることで、電動で開くかどうかはグレードによって分かれます。しかも電動側は、付いてくる機能ごとに範囲がさらに違います。リリースの注記では、パワースライドドア本体はRS・G・Xに設定され、標準装備はRSが両側・G・Xが左側(右側はメーカーオプション)。一方でウェルカムオープン機能の注記にはRSとGしか出てこず、Xは対象外と書き分けられています。技術広報資料側にも同趣旨の注記が付きます。ここは一括りにせず、機能ごとに読むところです。

リリースがこの項で挙げているのは3つです。車に近づくと自動で開く「ウェルカムオープン機能」(降車時にスイッチで予約しておく方式)、閉まりきるのを待たずに施錠を予約できる「タッチ&ゴーロック機能」、そして半ドアから自動で全閉する「スライドドアイージークローザー(左右)」。前の2つは両手がふさがっている場面を、3つ目は力をかけずに閉めることを想定した説明になっています。

変えなかったもの — 縦型リヤランプと、価格の線

ドアの形を変えた一方で、リリースは受け継いだものも明記しています。デザインの項にあるのがこの一文です。

ムーヴらしさのポイントとして、初代から受け継がれてきた縦型リヤコンビネーションランプを採用。

走りについても「歴代ムーヴにお乗りのお客様に好評な、きびきびした軽快な走りを継承」と書かれています。プラットフォームとパワートレーンはDNGAで刷新されていますが(DNGAの設計の順序については80kg軽くして、40kg戻した — ダイハツDNGAが軽自動車に持ち込んだ設計の順序(タント カスタムRS 2WDの場合)にまとめました)、狙いとしては継承が明示されている、という構図です。

そしてもうひとつ、価格です。リリースは第Ⅳ項をこう締めています。

時代の変化に合わせスライドドアを採用した上で、すぐれた基本性能・燃費や、充実した快適で便利な機能・装備など軽自動車に求められる魅力を進化させながら、135万円(税込)からというお求めやすい価格を実現。
量販グレードのX(2WD)でも、お客様が車両の購入を考える際の一つの基準である150万円(税込)を切る価格に設定。

メーカー希望小売価格(消費税込み)は次のとおりです。

  • L(NA・CVT) — 2WD 1,358,500円 / 4WD 1,485,000円
  • X(NA・CVT) — 2WD 1,490,500円 / 4WD 1,617,000円
  • G(NA・CVT) — 2WD 1,716,000円 / 4WD 1,842,500円
  • RS(ターボ・CVT) — 2WD 1,897,500円 / 4WD 2,024,000円

技術広報資料のグレード紹介では、Lに「スライドドア軽乗用車最廉価」、Xに「機能と価格のバランスに優れたメイングレード」という一言が添えられています(最廉価という表現はダイハツによるもので、当サイトが他社と比較して確認したものではありません)。

ここで150万円という線をダイハツ自身が名指ししているのが目を引きます。技術広報資料でターゲット層の声として並んでいた「予算は150万円以下」と、リリースのこの一文は同じ数字を指しています。当サイトが価格表を眺めて見つけた符合ではなく、資料の側が最初から引いていた線だということです。スライドドアという重さも構造も増えそうな要素を足したうえで、量販グレードはその線の内側に置く——第Ⅳ項の表題が「全方位で進化させながら、お求めやすい価格を実現」になっているのは、そういう意味だと読めます。

燃費についてリリースは、WLTCモードで22.6km/Lと書いています(注記は「2WD/CVT/NAエンジン搭載グレードの燃料消費率(国土交通省審査値)」)。なお販売目標は月間6,000台、生産はダイハツ九州株式会社の大分(中津)第2工場と発表されています。

まとめ

  • ムーヴは1995年に「ダイハツ初のハイト系軽乗用車」として登場し、30年・累計340万台超を数える基幹車種です(ダイハツ調べ、2025年3月末時点、ムーヴ・ムーヴカスタムのみ)
  • 7代目の技術広報資料は、新型の説明より先に「取り巻く環境の変化」として3枚のグラフを置きます。主流がハイト系からスーパーハイト系へ移ったこと、スライドドア車比率が約6割であること、そして客層が若年から子離れへ移ったこと
  • そのうえで後席スライドドアを全グレードに標準採用し、ダイハツはこれを「ムーヴとして初めて採用」と書いています。電動で開くパワースライドドアはRS・G・Xの設定です
  • 受け継いだものとして初代からの縦型リヤコンビネーションランプが明記され、価格は135万円(税込)からに据えられました

新型車の資料は普通、足したものの自慢から始まります。この資料が自分の周りで何が起きたかの説明から始まるのは、ムーヴがそのカテゴリーを作った側だったからだと思います。作った当人だからこそ、主役の座が移ったグラフを載せる意味がある、ということなのでしょう。

出典:ダイハツ工業の技術広報資料(企業情報サイト「モノづくり・コトづくり」内。新型ムーヴの車両概要・2025年6月5日・PDF 32ページ)/同社ニュースリリース「30年間、お客様のニーズに応えてきた「ムーヴ」をフルモデルチェンジ」(2025年6月5日)。引用は原文どおりです。グラフの区分名・ラベル(「約6割」など)は資料の表記をそのまま記載し、目盛りから読み取った数値は使っていません。価格・装備の設定はグレードや時期によって変わることがあるため、購入前には販売会社または公式サイトで最新の情報をご確認ください。

この記事が扱っていないこと:他社のスライドドア車との比較、燃費の従来型との比較(技術広報資料のグラフに4つの数値が並んでいますが、どの値が従来型でどの値が新型かの対応を当サイトでは確定できなかったため使っていません。リリースに明記のある22.6km/Lのみ本文に記載しました)、実車に乗った評価。当サイトは新型ムーヴを試乗しておらず、本記事は公表資料の記述のみで構成しています。

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