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80kg軽くして、40kg戻した — ダイハツDNGAが軽自動車に持ち込んだ設計の順序(タント カスタムRS 2WDの場合)

公開: 2026-08-28 / 更新: 2026-08-29

クルマを知るのイメージイラスト

クルマを軽くするのは良いことだ、と多くの人は思っています。軽ければよく走り、よく曲がり、燃費も良くなる。とくに排気量が660ccに制限される軽自動車では、重さは切実な数字です。

ところがダイハツは、2019年の新型タントで80kgの軽量化に成功しておきながら、そのうち40kgを自分で戻しています。従来のタントが960kg、新型が920kg(いずれもカスタムRS 2WDの場合)。実際に減ったのは40kgです。しかもこれは失敗の記録ではなく、ダイハツ自身が発表会の資料に収支のグラフとして載せた数字でした。

この記事が読むのは、ダイハツ工業が公開している3つの資料です。ひとつは新型タント発売のニュースリリース(2019年7月9日)。ひとつは同社の「技術広報資料」として公開されている発表会のプレゼン資料(PDF・2019年7月9日)。もうひとつは企業情報サイトの「ダイハツのモノづくり」のページです。試乗記ではありません。作った側が、自分の設計をどう説明しているかとして読んでください。

先に結論です

  • 新型タントはDNGA(Daihatsu New Global Architecture)による第一弾商品でした。ダイハツはDNGAを軽自動車を起点とした「一括企画・開発」と説明しています。大きいクルマの設計思想を軽へ降ろしたのではなく、軽から始めてスモールカーへ広げる向きです
  • 設計の順序が変わっています。発表会資料は「サスペンション配置を最優先で開発し、骨格を最適化したことで、基本性能が大幅に向上」と書いています。骨格を先に決めて足回りを収めるのではなく、逆でした
  • 軽量化の80kgは、そのまま軽さとして残していません。資料の見出しはずばり「車両全体で80kgの軽量化を実現し、商品力向上へ充当」。40kgを仕様・意匠、基本性能、安全性能の向上等に使い、残りの40kgだけが車重の差(960kg→920kg・カスタムRS 2WDの場合)として出ています
  • 出発点は技術ではなく商品側でした。チーフエンジニアのページには「しかし、従来プラットフォームでは全ては実現できない」という一文があります。やりたいことが先にあって、そのために骨格を作り直した順序です
  • ダイハツが「良品廉価を実現するための2つのキーワード」として挙げるのは、DNGAとSSC(シンプル・スリム・コンパクト)の2つ。安さを作っているのは設計だけではなく、工場の作り方も同格に置かれています

DNGAは「軽自動車を起点とした」と書かれている

まず名前の中身です。ダイハツの企業情報サイト「ダイハツのモノづくり」は、DNGAをこう説明しています。

ダイハツ独自の新しいクルマづくり「DNGA」。軽自動車を起点とした「一括企画・開発」で新プラットフォームを開発。画期的な新技術を採用したCVTをはじめ、パワートレーンからボディ、先進装備まで全方位で進化。2019年の新型「タント」以降、国内外のスモールカーに展開。

目を引くのは軽自動車を起点としたという部分です。プラットフォームの共通化というと、上級車で作った設計をだんだん下の車格へ広げていく流れを思い浮かべる人が多いはずですが、ここに書かれている向きは逆で、軽自動車で作ったものを国内外のスモールカーへ展開すると読めます。

その第一弾がタントである、というのはニュースリリース側にも明記されています。

また新型「タント」は、ダイハツの新世代のクルマづくり「DNGA(Daihatsu New Global Architecture)」による第一弾商品である。サスペンションや骨格の部品配置をゼロベースで再構築したプラットフォームを新開発。

タントは2003年に登場した、いわゆるスーパーハイト系の軽自動車です。新型は4代目にあたります。軽自動車のなかでも背が高く、室内を広く使うことに全振りしたクルマから、新しい設計の考え方が始まっている——という順番になります。

サスペンションの位置を先に決めた

発表会資料の「高い基本性能」の節に、設計の順序がそのまま書かれています。

アンダーボディ、パワートレーン、シャシ、シート等の構成要素を同時刷新

サスペンション配置を最優先で開発し、骨格を最適化したことで、基本性能が大幅に向上

サスペンション配置を最優先で。この一言に、順序の逆転が入っています。ふつうに考えれば、クルマの骨格(ボディ)があって、そこに足回りを取り付けます。ところがここでは、足回りをどこに置くかを先に決め、骨格のほうをそれに合わせて作り直したと書いてある。だから「アンダーボディ、パワートレーン、シャシ、シート等」を同時に刷新する必要がありました。

なぜそれが効くのか、その理屈自体は資料に書かれていません(発表会資料の全文で「サスペンション」が出てくるのは、いま引いたこの1行だけです)。ただ、同じ節に成果として挙がっているのは、操縦安定性と乗り心地で、資料は「急なステアリング操作でも安定して走行できる操縦安定性と、ソフトでフラットな乗り心地を実現」と書き、運転中の目線の動きの比較図を添えています(「運転時の疲労につながる視線のブレを低減」)。乗員が感じる揺れの話まで、足回りの置き場所の話として扱われていることになります。

80kg軽くして、40kg戻した

この記事のいちばんの見どころが、次のページです。見出しはこうです。

車両全体で80kgの軽量化を実現し、商品力向上へ充当

充当という言葉が使われています。軽量化を目的ではなく、何かに使う原資として扱っている書き方です。図はそれを収支のグラフで示しています。

段階重さ内訳として挙げられているもの
従来タント960kg—
軽量化−80kg1. シェルボディ構造の見直し/2. 足回り部品の見直し/3. 内外装部品の見直し
充当+40kg1. 仕様・意匠の向上/2. 基本性能の向上/3. 安全性能の向上 等
新型タント920kg—

ダイハツ工業「新型タント」技術広報資料(2019年7月9日)の図をもとに当サイトが表に整理。同図には「※カスタムRS(2WD)の場合」と注記があり、グレードや駆動方式が違えば数字も変わります。

リリース側には、この80kgの一部について部位別の数値もあります。プラットフォームを含むボディ骨格全体で約40kgの軽量化を実現、足回り全体で約10kgの軽量化を実現。合わせて約50kgぶんが、どこで減ったかまで書かれていることになります。

減らしたのは80kg。使ったのは40kg。差し引き40kgだけが、カタログの車重の差として表に出ています。もし軽さそのものを目的にしていたら、920kgではなく880kgのタントが出ていたはずです。

そして戻した先が何かというと、仕様・意匠と基本性能と安全性能です。同じ資料の別の節を見ると、この新型が積んだものが並んでいます。世界最小サイズ(2019年7月9日時点・ダイハツ調べ)のステレオカメラを使う次世代スマートアシストは、予防安全機能が従来の7機能から10機能へ、運転支援機能5機能と合わせて全15機能。全車速追従機能付ACC、車線をはみ出しそうになるとステアリング操作をアシストする車線逸脱抑制制御機能、対向車を検知して部分的に遮光するADB、フルLEDヘッドランプの全車標準装備。装備は重さを持ちます。軽くしなければ、これらは載せられなかったという関係になります。

資料自身が「充当」と書いているのは、そういう意味だと読むのが自然です。軽量化は目的ではなく、載せたいものを載せるための予算だった。

出発点は、技術ではなく商品の側にあった

では、その載せたいものはどこから来たのか。発表会資料の前半、チーフエンジニア(田代 正俊)のページに、それが書かれています。

ページの表題は「CEとしての想い」で、まず若年・子育て・シニアという3つの層それぞれの声が並びます。「先進装備を搭載してほしい」「車中で子供の世話がしたい」「乗り降りしやすいクルマがいい」。そのすぐ下に、この一文があります。

しかし、従来プラットフォームでは全ては実現できない

そして次のページの表題が「従来できなかったことが、新型タントで実現できる大チャンス」で、そこに DNGA の名前が出てきます。

つまり資料の中では、やりたいことのリストが先にあり、それが従来の骨格では成立しないという行き止まりがあり、その先に新しいプラットフォームが置かれているという順番になっています。新しい技術ができたからクルマを作った、という並びではありません。

タントが2003年から積み上げてきたものの上に立っている、という前提も資料に書かれています。資料は初代(2003年11月)・2代目(2007年12月)・3代目(2013年10月)を並べ、2代目で「ミラクルオープンドア」を実現したこと、「現在200万台を越えるお客様がご愛用」であることを挙げています。新型が新しく名乗ったのは「ミラクルウォークスルー パッケージ」で、これは2007年から続くミラクルオープンドアを「継続採用」したうえで新しい装備と組み合わせたもの、と説明されています。

安さを作っているのは、設計だけではない

もうひとつ、この一連の話を支えている前提があります。ダイハツが自社の最も大切な考え方として掲げる「良品廉価」です。企業情報サイトの定義はこうです。

「お客様が日々の生活や仕事で本当に必要とされている商品をお求めやすい価格で提供する」 ダイハツが最も大切にしているクルマづくりの考え方です。

面白いのは、その次にある「良品廉価を実現するための2つのキーワード」という見出しです。並んでいるのはDNGAと、もうひとつSSC(シンプル・スリム・コンパクト)。SSCの説明はこうなっています。

軽で事業が成立するビジネスモデルに向け、従来の約半分の面積と投資で同じ量を生産できる工場として、2007年にダイハツ九州大分(中津)第2工場を設立。シンプル・スリム・コンパクトな設備や工程で、高品質なクルマづくりを実現し、その技術やノウハウを国内外の工場に展開。

クルマの設計(DNGA)と、そのクルマを作る工場の設計(SSC)が、同じ見出しの下に並列で置かれている。安さは設計の工夫だけで作られるものではなく、作る場所の面積と投資額の話でもあると、ダイハツ自身が整理していることになります。

この2つが揃っているから、新型タントは装備を大きく増やしながら、リリースの言葉で軽自動車にふさわしい「お求めやすい価格」を特長のひとつに数えられました。発売時のメーカー希望小売価格は122万400円から187万3,800円(消費税込み・2019年7月9日発売時点)です。

「初」の注記は、付いているところと付いていないところがある

最後に、資料の読み方として一点。新型タントの資料には「初」がいくつも出てきます。そのうち新型が新しく積んだ装備を語る箇所では、条件がきちんと付いています。ニュースリリースの導入部分の直後には「※1:「初」表記はすべて2019年7月9日現在。ダイハツ調べ」とあり、発表会資料でも、たとえば新開発CVT「D-CVT」のスプリットギヤは「ベルト式無段変速機において、ベルトとギヤとに動力を分割して伝達する構造として初。2019年7月9日時点。ダイハツ調べ」という長い注記つきです。

一方で、注記が付いていない「初」もあります。発表会資料の冒頭「タントの歩み」のページで、初代についてタントが軽初 “スーパーハイト系” 新ジャンルを創出、2代目についてタントが軽初 “ミラクルオープンドア” 乗降性の改革と書かれている2箇所には、注記記号(※)が付いていません(同資料で最初の※が現れるのは、これよりずっと後の次世代スマートアシストの節です)。ニュースリリース冒頭の2代目では軽自動車初のピラーインドア「ミラクルオープンドア」を実現も同様で、※1の注記は、その後に並ぶ新型の特長リストに掛かっています。

つまり注記が丁寧に付くのは、いま売り出す装備について「初」と言うときで、過去を振り返る沿革の記述では付いていない。読む側も同じ精度で受け取る必要があります。「世界初」も「軽自動車初」も、注記があるならいつの時点で、誰が調べて、何の範囲で初なのかまで含めて1セットです。

まとめ

  • ダイハツはDNGAを軽自動車を起点とした「一括企画・開発」と説明しており、第一弾が2019年7月9日発売の4代目タントでした
  • プラットフォームは「サスペンションや骨格の部品配置をゼロベースで再構築」(リリース)され、発表会資料は「サスペンション配置を最優先で開発し、骨格を最適化」と書いています
  • 軽量化は80kg。ただしそのうち40kgを仕様・意匠、基本性能、安全性能の向上「等」に「充当」し、車重の差は960kg→920kg(カスタムRS 2WDの場合)の40kgに留めています。軽量化は目的ではなく原資でした
  • 資料の順序では、出発点は技術ではなく「しかし、従来プラットフォームでは全ては実現できない」という行き止まりの側にあります
  • ダイハツが「良品廉価」の2つのキーワードとして挙げるのはDNGAとSSCで、工場の作り方も同格に置かれています

この記事が扱っていないこと

  • 現在販売中のタントの装備・価格・車重は扱っていません。参照した資料は2019年7月9日のもので、その後の一部改良で内容は変わります。ご検討の場合は販売会社と公式サイトの最新情報をご確認ください
  • 他社のプラットフォーム戦略との優劣は判定していません。DNGAの向き(軽自動車を起点とする)についてはダイハツの記述をそのまま紹介したもので、他社の設計思想と比較して評価したものではありません
  • DNGAの技術的な中身のうち、CVT(D-CVT)の仕組みは深く扱っていません。変速機の方式そのものについては、当サイトの別記事で扱っています
  • 軽量化80kgの内訳のうち、残りの約30kgぶんと、充当した40kgの内訳は扱っていません。ニュースリリースにはボディ骨格全体で約40kg、足回り全体で約10kgという数値がありますが、それ以外の部位ごとの数値と、充当側の項目ごとの数値は参照した資料に記載がないためです
  • 「サスペンション配置を最優先」にするとなぜ基本性能が上がるのか、その理屈は説明していません。参照した資料に理由の記述がないためです
  • ダイハツの認証手続きをめぐる問題およびその後の対応については扱っていません。この記事の対象は2019年時点の技術資料の読み取りです

出典: ダイハツ工業株式会社のニュースリリース「DNGA第一弾として、軽乗用車「タント」をフルモデルチェンジし発売」(2019年7月9日)、同社が「技術広報資料」として公開している新型「タント」の発表会資料(PDF・2019年7月9日)、および同社 企業情報サイト「ダイハツのモノづくり」。いずれも2026年8月28日に取得しました。軽量化の収支を表に整理した部分、および記事内の見出しは当サイトによるものです。

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