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同じ日に、同じ工場から、2つの名前で — 日産サクラと三菱 eKクロス EV、2社のリリースは何を先に書いたか

公開: 2026-09-16 / 更新: 2026-09-16

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2022年5月20日、日産自動車と三菱自動車工業が、軽自動車タイプの電気自動車を同じ日に発表しました。日産の名前は「日産サクラ」、三菱自動車の名前は「eKクロス EV」です。

この2台は別々に企画されたクルマではありません。同じ日に両社とNMKVの連名で出たリリースが、成り立ちをこう書いています。

新型「軽電気自動車」は、日産と三菱自動車の合弁会社NMKVの企画・開発マネジメントのもと、日産の先進技術と三菱自動車の軽自動車づくりのノウハウを融合し、両社の得意とする電動化技術を結集した新世代の軽自動車タイプの電気自動車で、日産自動車モデルは『日産サクラ』、三菱自動車モデルは『eKクロスEV』として発売します。

1つの開発から生まれ、同じ工場で作られ、同じ日に発表された2台。それなら、2社が書いた文章の違いはクルマの違いではなく、説明の仕方の違いとして読めます。この記事では、両社の発表当日のニュースリリース2本と、この共同リリース1本 — 合計3本だけを読みます。

先に結論

  • 主な数字はそろっている。 総電力量20kWh、一充電走行距離180km(WLTCモード)、最大トルク195Nm、普通充電約8時間、急速充電約40分。補助金の額も55万円(日産側は「55万円となる見込み」と注記)
  • どちらの発表にも出てくる駐車支援機能で、「初」の基準が違う。 日産は「軽自動車において初搭載」(注記で2022年5月現在 日産調べ)、三菱自動車は「三菱自動車として初めて採用」。クラスの中での初か、自社の中での初か
  • 一般家庭の約1日分という説明の、分母も違う。 同じ20kWhのバッテリーについて、日産の注記は1日あたり約12kWh、三菱自動車の注記は約10kWh/日として算出している
  • 立ち位置の書き方が逆方向。 日産はまったく新しい軽の電気自動車・ゲームチェンジャーという言葉を使い、三菱自動車は既存のeKクロスシリーズに新たに設定するEVモデルとして説明した
  • 三菱自動車だけが、使い方のデータを書いた。 軽自動車およびコンパクトカーのユーザーの約8割は1日あたりの走行距離が50km以下(自社調べ)
  • 価格の下限は引き算できない。 グレードの構成が違う(日産はS・X・Gの3つ、三菱自動車はG・Pの2つ)

そろっている数字

まず、2本のリリースが同じ値を書いている項目を並べます。

項目日産サクラeKクロス EV
バッテリー総電力量20kWh20kWh(新開発)
一充電走行距離(WLTCモード)最大180km180km
最大トルク195Nm195N・m
普通充電8時間約8時間で満充電
急速充電約40分約40分で80%
補助金(リリース記載)55万円となる見込み550,000円
ドライブモード(3つという構成だけが共通。名称は各社別)Eco/Standard/SportNORMAL/ECO/SPORT

上表は2本のニュースリリースの記載をそのまま並べたものです。充電時間には条件が付きます。日産サクラは普通充電・急速充電とも「バッテリー残量警告灯点灯位置」が起点で(普通充電は~100%、急速充電は~80%)、注記に「充電時間や充電量はバッテリーや外気温の状態などによって変化します。」とあります。eKクロス EV 側は普通充電の条件を「普通充電(AC200V/14.5A)」と書いています。起点や電源の条件の書き方が2社で違うので、8時間・約40分という数字だけを取り出して比べることはできません。

走りの中身も、書かれている範囲ではよく似ています。どちらもアクセルペダルの操作で加減速をコントロールできるモードを持ち(日産はe-Pedal Step、三菱自動車はイノベーティブペダル オペレーションモード)、どちらも低重心化と静粛性を挙げています。ただし、ここでも書き添えの量は同じではありません — 三菱自動車のリリースは、このモードについて「なお、より強い減速が必要な時や完全に停止させるときはブレーキペダルでの操作が必要です。」と但し書きを添えていますが、日産のリリースに同じ趣旨の一文はありません。数字の並びだけを見れば、ここまでは同じクルマの説明として読めます。

違い1: 駐車支援機能の「初」が、片方はクラス初、片方は自社初

どちらの発表にも、自動で駐車するための支援機能が出てきます。日産は「プロパイロット パーキング」、三菱自動車は「マイパイロット パーキング」と呼びます。名前が違うので、2つがまったく同じ装置だとは、この3本のリリースからは確定できません。搭載の条件の書き方も違い、三菱自動車側は「P」のメーカーオプション設定だと明記し、日産側のリリースにはグレードの記載がありません。ただし、機能の説明はよく似ています。

日産の書き方はこうです。

駐車時にステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ、パーキングブレーキのすべてを自動で制御する「プロパイロット パーキング」を軽自動車において初搭載しました*1。

三菱自動車の書き方はこうです。

スムーズな車庫入れをサポートする「マイパイロット パーキング」を三菱自動車として初めて採用しました。駐車可能位置を自動で検知し、後退しての駐車、前進しての駐車、縦列駐車のいずれにも対応します。(「P」にメーカーオプション設定)

言っている「初」の中身が違います。日産は軽自動車というクラスの中で初めて、三菱自動車は自社の車種の中で初めて。日産側の*1はリリースの注記で「2022年5月現在 日産調べ」と定義されています。三菱自動車側の一文には、*のような注記番号は付いていません(代わりに、同じ文の括弧書きで「P」のメーカーオプション設定という条件が書かれています)。三菱自動車が比較の範囲を定義しない会社だ、ということではありません — 同じリリースの室内空間の説明では「クラス*6トップレベル」と書き、注記*6で「全高1700mm以下の軽ハイトワゴンクラス」とクラスを定義しています。

どちらの書き方も、それぞれの文章の中では正確です。ただ読者が受け取る新しさの大きさは変わります。クラス初と言われれば市場全体の話に聞こえ、自社初と言われればその会社の歩みの話に聞こえます。同じ日に発表された、1つの開発から生まれた2台で、ここが分かれていました。

違い2: 一般家庭の約1日分という説明の、分母

どちらのリリースも、バッテリーに貯めた電気を家庭で使える点を挙げ、その量をおよそ1日分だと説明しています(日産は本文で「非常時には約1日分の電力を賄うことができます。」、三菱自動車は本文で「一般家庭の約一日分」)。ところが、その1日分を計算するための前提が違います。

  • 日産サクラの注記*2: 「一般家庭での1日あたりの使用電力量を約12kWhとした試算値」
  • eKクロス EVの注記*8: 「一般家庭での1日当たりの使用電力量を約10kWh/日として算出」

同じ20kWhのバッテリーについて、片方は1日12kWhの家、もう片方は1日10kWhの家を想定しているということです。どちらも約1日分という結論は同じですが、想定の置き方は各社の判断です。

ここから読み取れるのは、何日分という説明は、電池の大きさだけでは決まらないということです。分母である家庭の使用量をどう置くかで答えは動きます。カタログや記事で1日分・2日分といった表現を見たときは、その注記に何kWhと書いてあるかを見ると、数字の意味がはっきりします。

当サイトは、どちらの想定が実態に近いかを判定できる資料を持っていません。ここで示したのは2本のリリースの注記の記載だけです。

違い3: まったく新しいと書くか、シリーズに足すと書くか

いちばん性格が出たのは、そのクルマが何であるかを一言で説明する部分でした。

日産は、既存のどれとも違うものとして書きます。

「日産サクラ」は、100%電気で走るまったく新しい軽の電気自動車です。

副社長の星野朝子さんの言葉も、リリースにこう載っています。

サクラは、リーフ、アリアに続く、量販乗用車モデルとなる電気自動車です。軽自動車市場に投入するこの電気自動車は、日本の自動車市場の常識を変えるゲームチェンジャーとなり、電気自動車の普及促進に弾みをつける存在になると確信しています。

参照しているのは自社の電気自動車の系譜(リーフ、アリア)であって、軽自動車の系譜ではありません。車名も新しく、リリースは由来を「日本の電気自動車の時代を彩り、代表するクルマとなって欲しい」という願いから日本を象徴する花である桜に由来し、社内公募により決まったと説明しています。

三菱自動車は逆に、すでにある軽自動車の並びの中に置きます。

新型『eKクロス EV』は、SUVテイストの軽自動車であるeKクロスシリーズ*2に新たに設定するEVモデルで、日常使いに十分な航続距離*3を実現しながら、お求めになりやすい価格設定としました。軽ハイトワゴン『eKクロス』と同等の広々とした快適な室内空間と使い勝手の良さに、EVならではの滑らかで力強い走り、圧倒的な静粛性と良好な乗り心地、さらに先進の運転支援機能とコネクティッド技術による快適性と利便性を融合させました。

比較の相手がガソリンで走る同じシリーズのクルマになっています。室内空間の説明も「ガソリンエンジンモデルと同様の広々とした快適な室内空間を確保する」という書き方です。車名も新しく作らず、既存のeKクロスにEVを足した形です。リリースは、三菱自動車らしい“環境✕安全・安心・快適”を具現化したいい軽(=eK)として提案する、という書き方をしています。

ちなみに、この違いは2社が持ち寄ったものの違いとも重なります。同じ日の共同リリースは、2台の成り立ちを「日産の先進技術と三菱自動車の軽自動車づくりのノウハウを融合し、両社の得意とする電動化技術を結集した」と書いています。先進技術を持ち寄った側が新しさを語り、軽自動車づくりを持ち寄った側が既存の軽の並びで語る — 共同リリースはそこまで書いていないので因果の断定はできません。しかも、三菱自動車の側にもEVの系譜はあります — 同じ共同リリースの次の段落は、生産についてこう書いています。

水島製作所では、世界初の量産電気自動車アイ・ミーブやミニキャブ・ミーブで培ったEV生産技術に加え、所内でのバッテリーパック一貫生産対応や、EVプラットフォーム製造ラインの増設などの設備投資を行ったことで、高い品質とコスト競争力を実現しました。

つまり、日産がEVで三菱自動車が軽という単純な分担ではありません。それでも自社の発表では、三菱自動車は軽の並びのほうを先に置いた — 2本のリリースの書き方の違いは、そこにあります(当サイトの読みです)。

デザインの説明も、同じ分かれ方をしています。日産は「次世代の日産らしさを感じさせるフロントフェイスと光るエンブレム」「軽自動車初*1となるプロジェクタータイプの3眼ヘッドランプ」を挙げ、三菱自動車は「人とクルマを守る安心感を表現したフロントデザイン「ダイナミックシールド」など、三菱自動車ならではのSUVテイストのデザイン」を挙げます。フロントまわりの説明に限れば、片方は次の世代の自社らしさへ、もう片方は自社の顔の続きへと向いています(なお「次世代」という言葉は日産だけのものではなく、三菱自動車も自社のリリースでこのクルマを次世代のEVモデルと書いています)。

三菱自動車だけが書いた、使い方の数字

180kmという航続距離は2台で同じです。ただしそれで足りるのかに答えを出しているのは、三菱自動車のリリースだけでした。本文と注記*3の両方に、こうあります。

軽自動車及びコンパクトカーのユーザーの約8割は、1日当たりの走行距離が50km以下(自社調べ)であり、大半のユーザーは2日間充電せずに走行できる想定

電池を大きくする話ではなく、いまの使われ方に対して足りているという説明です。日産側のリリースは、同じ180kmを「日常生活に十分な航続距離」と書いていますが、走行距離の分布のような数字は挙げていません。

この、足りているという論法は、当サイトが以前読んだEV専用の設備を、1つも入れなかった — ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」が変えなかったものにも出てきました。軽の電気自動車は、遠くまで走れることではなく、ふだんの距離に届くことを先に説明する — 少なくとも当サイトが読んだ範囲では、その順序が共通しています。

価格の書き方: 下限だけを比べない

最後に価格です。ここは注意が要ります。

項目日産サクラeKクロス EV
グレードS/X/G の3つG/P の2つ
車両価格(消費税込み)2,333,100円/2,399,100円/2,940,300円2,398,000円/2,932,600円
補助金活用時(リリースの表現)実質購入価格 約178万円から(予定)実質購入金額 1,848,000円から

価格はいずれも2022年5月20日のリリース記載。費用の内訳の書き方は2社で違います。三菱自動車側は注記と価格表の見出しに「リサイクル料金、保険料、消費税以外の税金、届出等に伴う諸費用は含まれません。」と明記しています。日産側のリリースには、この種の内訳の注記はありません(補助金については注記で「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金は55万円となる見込みです。」と書かれています)。

下限の数字だけを引き算してはいけません。 グレードの構成が違うからです。日産には三菱自動車側に無いSグレードがあり、いちばん安い価格はそのSの値です。逆に、両社ともグレードごとの装備の差をリリースだけでは書き切っていないので、同じ装備どうしの価格を突き合わせることもできません。ここで言えるのは、同じ日に発表された兄弟のような2台でも、用意したグレードの数は違ったということだけです。

この記事が扱っていないこと

  • 2台が機械として同一かどうか。 3本のリリースは開発と生産の枠組み(NMKVと水島製作所)を書いていますが、部品まで同一とは書いていません。装備の名前も違います
  • どちらが優れているか。 この記事が読んだのは発表時のリリースの文章だけで、実車の出来を比べる材料はありません
  • 走りや乗り心地の体感。 当サイトは両車を所有・試乗していません
  • 発売後の仕様変更・価格改定・補助金の増減。 2022年5月20日時点の記載だけを扱っています。現在の価格や補助金は必ず各社の公式サイトと公的機関の案内で確認してください
  • 販売台数や受賞歴。 この記事では扱っていません
  • グレードごとの装備。 両社とも標準装備とメーカーオプションの別をリリースの一部でしか書いていません

まとめ

  • 2022年5月20日、日産サクラと三菱 eKクロス EVが同じ日に発表された。合弁会社NMKVの企画・開発マネジメントのもとで生まれ、三菱自動車の水島製作所で生産される
  • 総電力量20kWh、一充電走行距離180km(WLTCモード)、最大トルク195Nm、普通充電約8時間、急速充電約40分、補助金55万円(日産側は見込みと注記) — 主な数字はそろっている
  • どちらの発表にも出てくる駐車支援機能について、日産は「軽自動車において初搭載」(注記で2022年5月現在 日産調べ)、三菱自動車は「三菱自動車として初めて採用」と書いた。クラス初か自社初かで、新しさの見え方は変わる
  • 一般家庭の約1日分という説明の前提も、日産は約12kWh、三菱自動車は約10kWh/日。同じ電池でも分母が違う
  • 日産はまったく新しい軽の電気自動車として、三菱自動車は既存のeKクロスシリーズに新たに設定するEVモデルとして書いた。参照している系譜が、自社のEV(リーフ、アリア)と自社の軽(eKクロス)で分かれている
  • 180kmで足りる根拠(約8割が1日50km以下・自社調べ)を本文と注記の両方に書いたのは三菱自動車だけだった
  • 価格の下限は、グレード構成が違うので引き算できない

軽自動車の枠そのものがどう決まってきたかは軽自動車の規格はなぜ全長3.4m・660ccなのか?1949年から動いてきた「枠」の物語に、クルマから電気を取り出す話は災害時、車から電気は何W取れるのか — 定格9,000Wの給電器でも、100Vのコンセント1口は1,500Wにまとめています。

出典: 日産自動車株式会社「新型軽 電気自動車「日産サクラ」を発表」(2022年5月20日)、三菱自動車工業株式会社「三菱自動車、新型軽EV『eKクロス EV』を本年夏に発売」(2022年5月20日)、日産自動車株式会社・三菱自動車工業株式会社・株式会社NMKV「日産自動車、三菱自動車、NMKVが新型「軽電気自動車」のオフライン式を実施」(2022年5月20日)。数値・引用はすべてこの3本のニュースリリースの記載によります。2026年9月16日に各ページを確認しました。2社の記述を並べた表と、そろっている数字と違いの整理は当サイトによるものです。いずれも発表時点の情報であり、現在販売されている車種の仕様・価格・補助金とは異なります。

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