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4WDに「乗り心地」が足された — 日産 e-4ORCE が減速時に前後のモーターで分けているもの

公開: 2026-08-30 / 更新: 2026-08-30

クルマを知るのイメージイラスト

4WDと聞いて思い浮かぶのは、雪道やぬかるみではないでしょうか。日産自動車の電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」の説明も、その一文から始まります。

これまでの4WDは、雪道や未舗装路などで主に発揮される機能でした。これに対して、e-4ORCEは、日常からアウトドアまですべてのシーンで「走る・曲がる・止まる」性能を飛躍的に向上し、4WDの価値を大きく転換するテクノロジーです。

日産自身の答えは走る・曲がる・止まるの全般で、アウトドアもそこに残っています。そのうえでこの会社は、同じページに「上質な乗り心地」という項目を独立して立て、仕組みのページでは減速したときの車体の揺れを抑える話を書いています。4本のタイヤの駆動力を配る技術に、乗り心地が足されている — この記事が追うのはその1本です。

先に結論です

  • 日産は4WDの目的を3段階で書き、乗り心地を「そして今」の位置に置いている — 「「安心してどこでも走れる」を出発点に、「卓越したハンドリング性能」へと進化。そして今、「快適な乗り心地」の実現へ。」(電動化ページの逐語)。置き換えではなく追加で、月面ローバのページでも「さらには車両姿勢を制御することにより同乗者にも快適な乗り心地を提供する」と書かれている
  • 減速時、前後2つのモーターで回生を分けている — 前輪だけで回生すると起きる車体の前後の揺れ(ピッチング挙動)を抑えるため。日産はこれを「同乗者にも快適な乗り心地」と結び付けている
  • 前後の配分を大きく振れるようになったのは、機械のつながりを外したから — 日産は従来の機械式4駆を「構造上50:50までしか駆動力配分を変えられない」と書き、前後にモーターを持つ方式を「100:0~0:100まで自在に駆動力を変えられるポテンシャルがあります」と書いている
  • 後輪の配分を高める制御には「一部の車種では」という限定が付く — 技術ライブラリーのページで4回(コーナリング時・発進時・仕組みの説明・概要)。全車の話ではない(回数は当サイトによる数え)
  • 発進時の沈み込みは、サスペンションの形で押し返している — 「前上がりのジオメトリーにしたRRサスリンクが車体を上向きにする力を発生させ(アンチスクワット)」。これも「一部の車種では」の側
  • 雪の話は消えていない — 電動化ページには「雪道での高い安心感」という項目が独立して立っている。増えたのが乗り心地の側で、置き換わったわけではない
  • 同じ制御が月面に向かっている — 日産はJAXAと共同研究を行い、2020年1月から参画している。研究しているのは「路面状況に応じてタイヤの空転量を最小限に抑え」る駆動力制御で、砂地でのスタック回避はその一例

この記事が読むのは、日産自動車が公開している3つのページです。技術ライブラリーの「e-4ORCE」(最終更新 2026年7月)、イノベーション>電動化の「電動駆動4輪制御技術 e-4ORCE」、そして技術ライブラリーの「e-4ORCEを応用した月面ローバの駆動力制御技術研究」。引用と数値はすべてこの3ページの記載によります。

日産が書いている、目的の3段階

e-4ORCE の説明でいちばん目を引くのは、性能の数字ではなく、目的の変遷を自分で3つに区切っている一文です。

日産の4WD技術は、「安心してどこでも走れる」を出発点に、「卓越したハンドリング性能」へと進化。そして今、「快適な乗り心地」の実現へ。

出発点は走れること。次が曲がれること。そして現在地が乗り心地だと書いてあります。ここでいう乗り心地は、シートやサスペンションの話ではありません。四輪の駆動力の配分でつくる乗り心地です。

4本のタイヤを、前に進めるためではなく曲げるために制御する発想そのものは、この業界で日産だけのものではありません。当サイトでは三菱自動車の四輪制御をなぜ三菱は「曲がる」を駆動力で作るのか?AYCからツインモーター4WDへ、四輪制御の物語で扱いました。日産のページが独特なのは、その先に同乗者という言葉が出てくるところです。

機械でつながっている限り、50:50から先へは行けない

なぜ電動化で配分の自由度が変わるのか。日産は仕組みの節でこう書いています。

従来の機械式4駆が、構造上50:50までしか駆動力配分を変えられないのに対し、前後輪それぞれにモーターを持つ4駆システムは100:0~0:100まで自在に駆動力を変えられるポテンシャルがあります。これにブレーキ制御を組み合わせることで左右の駆動力を変え、4輪の駆動力を高速・高精度にコントロールします。

エンジンが1つで前後を回す方式では、動力はプロペラシャフトを通って後ろへ運ばれます。前後を切り離したり、後ろだけで走ったりはできません。前と後ろにモーターを1つずつ置くと、その制約が外れます。日産の書き方で注意したいのは、「ポテンシャルがあります」という言い方です。100:0〜0:100を常に使っているとは書かれていません。

そして左右については、モーターを4つ置いたとは書かれていません。左右の差はブレーキで作っています。技術ライブラリーの仕組みの節は「前後のモーターと左右のブレーキ」と書き、電動化ページの冒頭は「前後2つのモーターと4輪のブレーキを瞬間的に統合制御」と書きます。ブレーキの数え方が2ページで違うので、ここでは前後はモーター、左右はブレーキという整理を、仕組みのページの説明として読んでおきます。技術の定義そのものは「前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御により、駆動力を自在にコントロールする電動駆動4輪制御システムです」です。

減速で起きていること — 前輪だけで回生すると、車体はお辞儀をする

ここが、この技術のいちばん面白い部分だと思います。減速時の説明を引用します。

ドライバーがアクセルを戻した際には、前後2つのモーターでバランスよく回生し、減速させます。これにより、前輪のみで回生の場合に発生する車体のピッチング挙動を抑え、フラットで滑らかな減速を実現、同乗者にも快適な乗り心地を提供します。また各輪の滑り度合を常にモニタリングし、滑りやすい路面では回生量を自動的にコントロールします。

電気で走るクルマは、アクセルを戻すとモーターが発電機になって減速します(回生)。このとき前輪だけで回生すると、前輪だけにブレーキがかかったのと同じことが起きます。車体は前へつんのめる方向に姿勢を変える — 日産はこれをピッチング挙動と呼び、前後2つのモーターで回生を分ければ抑えられると書いています。

電動化ページの側では、同じことがもう少し生活寄りの言葉になっています。「…発進と停止を繰り返すような状況でも前後の揺れを感じることが少なく、乗る人すべてに安定した乗り心地を提供します。」(前半は「e-4ORCEは前後のモーターそれぞれで回生ブレーキを最適に制御し、減速時の車両の沈み込みや揺れを抑えることで、」) 発進と停止を繰り返すような状況 — 渋滞や信号待ちを思い浮かべる人が多いはずですが、渋滞・信号待ちという語は日産のページには出てきません(当サイトの読み替えです)。原文が書いているのは「発進と停止を繰り返すような状況」までで、それでも、雪道や未舗装路とはずいぶん違う場面が挙がっていることは確かです。

ただし、減速時に働いているのがモーターだけだとは書かれていません。電動化ページは同じ減速について「また、減速時には前後モーターによる回生ブレーキと4輪の油圧ブレーキを組み合わせて協調制御。こうした高度な制御により、コーナリング性能を向上させています。」と書いており、油圧ブレーキも4輪ぶん関わっていて、しかもその効果はコーナリング性能の側に置かれています。同じ減速の制御が、ページによって乗り心地の話にもハンドリングの話にもなる — 2ページを並べて読むと、そこがはっきりします。

なお、この減速時の説明には「一部の車種では」という限定が付いていません。次に見る発進時の制御とは、そこが違います。

発進で起きていること — 沈み込みを、サスペンションの形で押し返す

発進時は逆向きです。加速すると車体の後ろが沈みます。ここで日産が書いているのは、駆動力の配分だけでなくサスペンションの取り付け方と組み合わせた説明です。

また発進時にも後輪の駆動力配分を高めることで、前上がりのジオメトリーにしたRRサスリンクが車体を上向きにする力を発生させ(アンチスクワット)、車体後部の沈み込みを抑制します。

スクワットはしゃがむ動きのことで、アンチスクワットはそれに抗する仕掛けです。サスペンションのリンクをあらかじめ前上がりの角度で付けておくと、後輪が路面を蹴ったときに、その力の一部が車体を持ち上げる向きに働きます。つまりここでは、電子制御が仕事をするために機械の側にも前提が用意されていることになります。制御だけで姿勢を作っているのではありません。

発進時の節にも同じ趣旨の記述があり、そちらは「一部の車種では、発進時に後輪の駆動力配分を高めて、車体のピッチング挙動を抑制する制御を採用しています。」と書かれています。後輪の配分を高める側は、車種が限られるという理解になります。

「一部の車種では」が4回出てくる

技術ライブラリーのページを通して数えると、「一部の車種では」は4回出てきます(数えたのは当サイトです)。内訳は、冒頭の概要・コーナリング時・発進時・仕組みの説明で、いずれも後輪を積極的に使う側の制御に付いています(概要だけは「後輪の駆動力をより積極的に活用する制御」で、他の3つが「配分を高める」です)。

  • 概要 — 「後輪の駆動力をより積極的に活用する制御を採用することで、快適性と走行性能をさらに向上させます。」
  • コーナリング時 — 「積極的にクルマの向きをコーナーの内側に向けることで、後輪駆動車のような気持ちの良いハンドリングを提供します。」
  • 発進時 — 「車体のピッチング挙動を抑制する制御を採用しています。」
  • 仕組み — 「前輪はタイヤのグリップをよりコーナリングフォース(曲がるための力)に使えるようになり」

e-4ORCE という同じ名前でも、後輪を積極的に使う側の制御が全車に載っているとは書かれていません。どの車種が該当するかは、このページには書かれていません。電動化ページに搭載車種として挙がっているのは日産アリア、エクストレイル e-POWER、セレナ e-POWERの3車種です(このページの記載時点のもので、グレードや駆動方式の区別は書かれていません)。

ちなみに、e-4ORCE が土台にしている100%モーター駆動そのものについては、当サイトのなぜ日産のエンジンはタイヤを回さないのか?EVから生まれたe-POWER、逆転の発想の物語で扱っています。

「雪」はどこへ行ったのか — 2ページを数えてみる

ここで、うっかり書きたくなる話を1つ止めておきます。日産は4WDを雪の道具ではなくした、とは書けません。実際に語を数えると、こうなります。

  • 技術ライブラリーのページ — 雪は1回(発進時の「滑りやすい雪の坂道」)。悪路と未舗装は0回
  • 電動化ページ — 雪は3回(冒頭の一文、見出しの「雪道での高い安心感」、その本文)。未舗装は1回(冒頭の「これまでの4WDは」の文)

(数えたのは当サイトで、いずれも本文のテキストを対象にしています。ページ下部の関連コンテンツ欄・ナビゲーションは数に含めていません。この欄まで含めると電動化ページの「雪」は5回になります。)つまり雪の話は残っています。同じ会社の同じ技術でも、技術の仕組みを説明するページでは雪がほとんど出てこず、読者に価値を伝えるページでは3本柱の1つとして雪が立っている。増えたのが乗り心地の側で、雪が置き換わったのではない — これがページを両方読んだときの正確な形です。

同じ制御が、月面のローバへ

この技術には、もう1ページ続きがあります。

日産は2020年1月から共同研究に参画し、量産電気自動車開発で培ってきたモーター制御技術と、電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を応用し、月面ローバの駆動力制御に関してJAXAと共に研究を進めています。

月面は砂地や起伏があり、走行用のエネルギーも限られる。そこで研究しているのは、「路面状況に応じてタイヤの空転量を最小限に抑え、様々な路面環境において走行性能を高める駆動力制御」です。日産はその効果を2つ挙げています。砂地でのスタック(脱出困難な状態)を避けられること、そして空転によるエネルギーロスを最小化できること。

過酷な環境下での走行性能を高めることと、走行エネルギーを効率化することは、月面で走るローバだけでなく、地上で走る車にも求められる要件です。

砂に潜らないようにタイヤの空転を抑える技術と、渋滞で同乗者を揺らさない技術。まったく違う場所の話に見えて、日産のページではどちらも4輪それぞれの駆動力をどう配るかという同じ問いの答えとして並んでいます。

この記事が扱っていないこと

  • 他社の電動4WDとの優劣 — 参照した3ページに他社の技術についての記述はありません。当サイトでも比較試験は行っていません
  • 加速性能や燃費・電費の数値 — この3ページに、e-4ORCE の有無による測定値は載っていません
  • どの車種のどのグレードが「一部の車種」に当たるか — ページに書かれていないため、購入検討では販売店にご確認ください
  • 月面ローバの実機の仕様や打ち上げ計画 — 共同研究の説明ページであり、機体の諸元は載っていません

まとめ

  • 日産は e-4ORCE を「前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御」と定義している。前後はモーター、左右はブレーキで駆動力を変えている
  • 4WDの目的について、日産は「安心してどこでも走れる」→「卓越したハンドリング性能」→「快適な乗り心地」という3段階を自分のページに書いている
  • 減速時は前後2つのモーターでバランスよく回生し、前輪のみで回生した場合に起きるピッチング挙動を抑える。この記述に「一部の車種では」の限定は付いていない
  • 発進時のアンチスクワットは、前上がりのジオメトリーにしたリヤサスリンクと後輪の駆動力を組み合わせたもので、こちらは「一部の車種では」の側
  • 「一部の車種では」は技術ライブラリーのページに4回あり、すべて後輪を積極的に使う側の制御に付いている(数えたのは当サイト)
  • 機械式4駆は「構造上50:50まで」、前後にモーターを持つ方式は「100:0~0:100まで」と書かれている。ただし後者は「ポテンシャルがあります」という書き方である
  • 雪の話は消えていない。電動化ページには「雪道での高い安心感」の項目が独立して立っており、増えたのは乗り心地の側である
  • 同じ制御はJAXAとの共同研究(2020年1月から参画)で月面ローバへ向かっており、狙いは路面状況に応じた空転量の最小化とエネルギーロスの最小化である

出典: 日産自動車株式会社の公式サイト。技術ライブラリー「e-4ORCE」(最終更新 2026年7月)、イノベーション>電動化「電動駆動4輪制御技術 e-4ORCE」、技術ライブラリー「e-4ORCEを応用した月面ローバの駆動力制御技術研究」。語の出現回数の集計、前後と左右で担当が違うという整理、目的の3段階と月面の研究を並べた読み方は当サイトによるものです。搭載車種・制御の適用範囲は変更されることがあるため、購入検討の際は日産自動車の商品情報および販売店でご確認ください。

※広告を含みます

この記事で追いかけたのは、カタログの数字ではなく減速や発進のときの姿勢という、乗らないと分かりにくい部分でした。日産が搭載車種として挙げているのはアリア・エクストレイル e-POWER・セレナ e-POWER の3車種です。自分の生活圏でどんなクルマが借りられるかを見てみたい方向けに、入会金・月会費が0円のカーシェア「EARTHCAR」があります(6時間1,000円〜、10kmまでは距離料金なし。金額は目安で、車種や時期によって変わります)。借りられる車種・グレードはステーションと時期によって変わるため、e-4ORCE 搭載車を借りられるとは限りません。

EARTHCAR(カーシェア)を見る

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