貯められる量では、いちばん少なかった — マツダ i-ELOOP が電池ではなくコンデンサを選んだ理由

クルマの電気は、どこから来ているのか。エンジンで走っているクルマなら、答えはオルタネータ(発電機)です。エンジンの回転をベルトで受け取って発電し、ヘッドライトもエアコンの送風も、その電気で動いています。
ここに、あまり意識されない事実があります。その発電の分だけ、エンジンは余計に燃料を使っているということです。走るためではなく、電気を作るために。
マツダが2012年に発表したi-ELOOP(アイ・イーループ)は、この発電を減らす仕組みです。減速しているあいだだけ強く発電し、その電気でしばらく走る。ハイブリッド車のようにモーターで走らせるわけではありません。回収した電気の行き先は電装品です。ただし、あとで見るように発電すること自体がクルマを減速させるので、走りと無関係でもありません。
この仕組みの中心にあるのが、電気を受け止める部品です。マツダはそこに電池ではなくコンデンサ(電気二重層キャパシタ)を置きました。しかも、貯められる量で比べるなら、コンデンサは候補のなかでいちばん少ないのです。
この記事は、マツダ技報 No.30(2012)に載った3本の論文——「減速エネルギ回生システム“i-ELOOP”の開発」「減速エネルギ回生システム“i-ELOOP”のデバイス開発」「“i-ELOOP”制御技術の開発」——を読んで、なぜ電池ではなくコンデンサだったのかを追うものです。
先に結論です
- 狙いは燃料による発電をゼロにすること — 論文の言葉では「燃料を使用したオルタネータでの発電をゼロにするコンセプト」。走りを助けるのではなく、発電のためにエンジンが払っている分をなくす仕組みです
- 制約は、減速が短いこと — 日本の燃費測定モードJC08で調べると、加減速のあいだの時間は「平均すると38.7秒」。この短さが、部品に求められる性能を決めました
- 必要な容量は先に決めてあり、種類を分けたのは別の2点だった — 要求仕様は「モジュール容量120F 以上,エネルギ量23kJ 以上」と先に確定していて、そのうえで論文が選定のポイントに挙げたのは「①低電圧系で,大電流(200A)での受入れ性,②エンジンルーム搭載を想定した寿命性能の実現性」でした
- ニッケル水素、鉛、リチウムイオンは順番に外れた — 鉛は「受入れ性を高めると寿命が短くなるため」。ニッケル水素は「2 並列以上で対応する必要があり」大型化の懸念があるうえ、リチウムイオンとともに使用環境温度の上限が60℃で「専用の冷却システムが必要となり大型化することと安全性面で選定から外した」と書かれています(ニッケル水素は2つの理由で外れています)
- 貯められる量では、コンデンサは4種類のうち最下位 — 論文の比較表でエネルギ密度は5〜10Wh/kg。リチウムイオン(100〜200)の10分の1以下で、この項目にだけ×が付いています。それでも選ばれました
- マツダ自身が比喩で説明しています — 従来の鉛バッテリは「ポリタンクのようなもので出入り口は小さいが容積は大きい」、コンデンサは「出入り口の大きなバケツのようなもので出入りは容易だが貯めることのできる容積は小さい」。だから置き換えず、「回収」と「車両負荷」に機能を分けて両方を並べました
発電は、タダではない
まず、i-ELOOPが何を減らそうとしたのかを押さえます。論文は冒頭で、燃費を良くするための着眼点を並べたうえで、そのうちのどれとどれを組み合わせたのかをこう書いています。
これらの改善アイテムの中で,電気システムでの改善が効率的にできる領域として,Fig.2 の5.の廃棄していたエネルギの再利用と3. エンジンの仕事量削減と4.エンジンの駆動力不要時燃料カットを関連付けてシステム化し,改善できる領域があると考え,燃料を使用したオルタネータでの発電をゼロにするコンセプトの“i-ELOOP”の開発となった。
捨てていた減速のエネルギを拾うこと、エンジンの仕事を減らすこと、そしてアクセルを戻したときに燃料を止めている時間を活かすこと。この3つは、ひとつの装置でつながります。減速中に発電しておけば、加速中は発電しなくて済むからです。
同じ、オルタネータがエンジンの足を引っ張っているという問題に別の答えを出したメーカーもあります。ダイハツは減速時に発電を寄せる制御を採り、それを軽自動車の燃費向上策のひとつとして並べました(「第3のエコカー」ミラ イースは、何を積み上げて燃費を上げたのか — ダイハツが2011年に並べた細部と、今日の一部改良)。i-ELOOPが違うのは、その電気を貯めておく場所を新しく用意したところです。
減速は、平均38.7秒しかない
貯める場所を用意するなら、まずどれだけ貯めればいいかを決める必要があります。論文はここで、実際の走り方から逆算しています。
JC08 での加減速では,10 秒以上の車速ゼロおよびアクセルON が20 回で最長80 秒であり,平均すると38.7 秒となる。
この38.7秒は原文のとおり「10 秒以上の車速ゼロおよびアクセルON」の時間を平均したもので、停車している時間も含みます。つまり次に減速が来るまでの間隔がおよそ40秒。そのあいだ、クルマの電装品に電気を配り続けられる量があればいい、という考え方です。実走行の消費電流を40Aと見積もって、論文は目標をこう置きました。
40A の消費電流で,45 秒電力供給できる13.5V × 40A × 45 秒=24.3kJ を仮の目標とした。
この24.3kJから必要な静電容量を計算すると113F。実際の設計値は120Fで、論文はその理由を「(実際は実用燃費優先で劣化も考慮し120F とした。)」と括弧書きで添えています。エネルギ量としては25.7kJです。
ここで、話が逆を向きます。40秒ぶんの電気を貯めるとして、それを充電できる時間もまた、減速している数秒しかないのです。論文は充電時間もその場で計算しています。
充電時間t は1 回あたりの充電電流を200A とすると,Q=CV から200t=120×(25-14)⇒ t=6.6sec
200アンペアを6.6秒。論文は「ただし本計算では内部抵抗値は無視している。」と断っていますが、桁の感覚は分かります。ふつうの充電とはまるで違う、短時間に大電流を流し込む使い方です。要求される部品の性格が、ここで決まりました。
4つの候補が、順番に外れていった
デバイス開発の論文は、4種類を比較したと書いています。電気二重層キャパシタ(EDLC)、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、そして鉛バッテリ。選定の基準はこの2つでした。
選定のポイントは,①低電圧系で,大電流(200A)での受入れ性,②エンジンルーム搭載を想定した寿命性能の実現性である。
ここで大事なのは、必要な容量は要求仕様の側で先に決まっていることです。同じ論文は「EDLC に求められるエネルギ量は,モジュール容量120F 以上,エネルギ量23kJ 以上とした。」と書いています。そのうえで候補を分けたのが上の2点、つまり①どれだけ速く受け取れるか、②どこに置けるかでした。候補は、この2つで順に外れていきます。
- ニッケル水素電池 — 「電流受入れ性を考えると、2 並列以上で対応する必要があり,モジュールが大型化する懸念があることから候補からはずした。」
- 鉛バッテリ — 「受入れ性を高めると寿命が短くなるため,本システム用途には適用できないと考えた。」
- リチウムイオン電池 — 受け入れ性そのものは足りていました。「EDLCとLiBは,パワー密度が4,000W/kg以上であり,本システムへの適用は可能である。ただし、LiBは、寿命末期では回生効率の低下が懸念される。」。決め手は置き場所のほうでした
置き場所の話は、居住空間を優先した結果です。論文は「居住空間(車室内/トランク)の広さを優先し,エンジンルーム内搭載を目指した。」と書いています。ではエンジンルームはどれくらい暑いのか。
エンジンルーム搭載場所は,通常走行であれば走行風が当たるため,温度は上昇しにくいが,渋滞やアイドリング停車では,80℃を超える高温環境に曝される場合がある。
この一文が、リチウムイオンとニッケル水素を落とします。両者の使用環境温度の上限は60℃。冷やす装置を足せば載りますが、それは「専用の冷却システムが必要となり大型化することと安全性面で選定から外した」となりました。荷室を削らないと決めたことが、電池の種類を決めているわけです。
受け取る力は3倍。それでも、全部は受け取らない
制御技術の論文は、この組み合わせで何がどれだけ変わったのかを数字で書いています。まず装置の側。
多くの減速エネルギを回生するため,発電装置は最大電圧25V,最大電流200A の発電性能を持つ可変電圧オルタネータを採用した。減速の限られた時間で多くのエネルギを蓄えるため,蓄電装置は鉛バッテリの10 倍以上の充電受入性能を持つキャパシタを採用した。
鉛バッテリの10倍以上の充電受入性能。ここまで見てきた口の大きさが、そのまま倍率で書かれています。発電機とあわせた効果も同じ論文にあります。
i-ELOOP は可変電圧オルタネータとキャパシタを採用することで,従来比約3 倍の減速エネルギを回生する能力を得た。しかし,回生する際は減速度がドライバに違和感を与えないよう発電トルクを制限するため,発電能力を最大限利用できない可能性がある。
この「しかし」以降が、この記事でいちばん人間くさい部分です。発電するとき、発電機はエンジンやタイヤの側から力をもらいます。減速中に強く発電すれば、その分だけクルマは余計に減速します。アクセルを戻しただけなのに思ったより強く速度が落ちれば、運転している人は違和感を持ちます。
だから論文は、可変電圧オルタネータの制御について「ドライバに違和感を与えない」ことを条件に置き、発電トルクを制限すると書いています。受け取れる能力が3倍になっても、実際に受け取る量を決めているのは人の感覚のほうだということです。速く受け取れる部品を選び抜いた先で、最後に上限を決めるのは電気の都合ではありませんでした。
小さい容量で足りたのは、制御のおかげだった
先ほど保留にした「容量は限られるため,満杯になり減速エネルギを充電できない場合がある。」への答えが、同じ論文にあります。コンデンサと鉛バッテリを両方使う「デュアルストレージ制御」です。
やっていることは、次の減速で入ってくる量をあらかじめ見積もって、その分の空きを開けておくことです。論文はこう書いています。
具体的には,車両重量,車速,エンジン抵抗,車両走行抵抗等を用いて,次の減速時に得られる減速エネルギを逐次演算する。演算した減速エネルギを充電できるSOC を目標SOC と定め,目標SOC を上回るエネルギを鉛バッテリに移動させる
ここで、鉛バッテリへ移す量は多いほどよいわけではありません。論文は「鉛バッテリは,大きな容量を有しているが充放電の効率が低いため,充放電によってエネルギ損失が大きくなる。」と書き、だから「鉛バッテリへ移動させるエネルギを最小にしている。」としています。空けるために移す、しかし移しすぎると損をする。その境目を、次の減速の大きさを予測して決めているわけです。
そしてこの制御が、部品の大きさを決めました。
その結果,キャパシタの容量は一般的な減速1 回分の減速エネルギを充電できる容量となり,システムの小型化に貢献している。
つまりコンデンサが小さくて済んだのは、容量が要らなかったからではなく、次の減速のぶんだけ空けておく制御を作ったからです。部品の性格(速く受け取れるが少ししか貯まらない)と、制御(空きを予測して用意する)が噛み合って初めて、この大きさに収まりました。
副産物もあります。停車中はコンデンサが満杯になっているので、アイドリングストップ中の電気をそちらから出せます。その結果として「鉛バッテリの充放電量は従来の半分以下になり,寿命を延ばすことが可能となった」と書かれています。回生のために足した部品が、もとからあった部品を長持ちさせたことになります。
貯められる量では、全部に負けている
残ったEDLCが、他の3つに勝っていたかというと、そうではありません。論文の比較表を項目ごとに見ると、はっきり負けている欄があります。
- エネルギ密度(Wh/kg) — EDLC 5〜10(×) / リチウムイオン 100〜200(○) / ニッケル水素 50〜80(○) / 鉛 30〜40(○)
- 電圧(V) — EDLC 2.5(△) / リチウムイオン 3〜3.7(○) / ニッケル水素 1.2(△) / 鉛 2(△)
- 最大出力(W/kg) — EDLC 10,000超(○) / リチウムイオン 4,000(○) / ニッケル水素 1,000〜2,000(△) / 鉛 200(×)
- 内部抵抗(mΩ) — EDLC 1(○) / リチウムイオン 2.5(△) / ニッケル水素 3(△) / 鉛 5(△)
- 動作温度(℃) — EDLC -30〜70(○) / リチウムイオン -30〜60(△) / ニッケル水素 -30〜60(△) / 鉛 -30〜80(○)
- サイクル寿命(充電状態0⇔100%・25℃) — EDLC 100万回超(○) / リチウムイオン 3,000回超(△) / ニッケル水素 1,000回超(△) / 鉛 300回超(×)
○×は論文の表に付いている評価です。×が付いているのは貯められる量だけで(電圧には△が付いています)、出力・内部抵抗・寿命は○。この並びが、i-ELOOPという仕組みの性格をそのまま表しています。減速のたびに使う装置なので、寿命の桁が3つ違うことは効きます。
もっとも、容量の小ささは、気にしなくていいという話ではありませんでした。制御技術の論文は、これを解くべき課題として名指ししています。「キャパシタは大電力を高効率に充電することができるが容量は限られるため,満杯になり減速エネルギを充電できない場合がある。」。その答えは、あとの節で見ます。
そして論文は、鉛バッテリとの関係をこう説明します。ここが、この記事でいちばん分かりやすい一節です。
従来車における鉛バッテリは,ポリタンクのようなもので出入り口は小さいが容積は大きい。従って,今回の減速回生用途では,回生量が限定され回収効率が低い。そこで,回収と車両負荷に機能を分け,それぞれの蓄電デバイスに担当させる手法を考案した。”i-ELOOP”におけるEDLC は,出入り口の大きなバケツのようなもので出入りは容易だが貯めることのできる容積は小さい。従って,回収機能に特化させ,鉛バッテリと並接させるシステムを今回新たに構築した。
大事なのは「並接させる」という言葉です。i-ELOOPを積んだクルマから鉛バッテリが消えたわけではありません。ただし分け方は受け取る係と貯める係ではなく、原文のとおり「回収」と「車両負荷」です。コンデンサは「回収機能に特化させ」と書かれており、電装品への供給は従来から鉛バッテリの側が担ってきた役です。コンデンサに貯まった25Vの電気は、DC-DCコンバータで14Vに落として使われます。
暑さには、電圧を下げて耐えた
もっとも、EDLCなら暑さが平気だったわけでもありません。デバイス開発の論文は、自分たちが達成した水準と、それでも足りなかったことを続けて書いています。
今回開発したEDLCは,高温での性能保証を70℃まで向上させたが,エンジンルーム内への搭載のためにはまだ不十分であった。そこで,70℃以上から,段階的に上限電圧を下げていき,85℃以上では16V以下で制御する劣化コントロールを組み合わせることで,10 年24 万kmの保障を実現することが可能となった。
部品の耐熱を上げきれない分を、制御で守るという解き方です。暑い日は充電の上限電圧を下げる。貯められる量は減りますが、部品は延命します。論文はこの組み合わせによって10年24万kmの保障を実現したと書いています。先ほどの計算では14Vから25Vまで使って120Fという設計でしたから、上限が16Vになれば使える幅はかなり狭くなる——と読めます。ただし論文はこの組み合わせについて「10 年24 万km 相当の劣化後でも,回収能力は確保できる事を確認した。」と書き、結論として「エンジンルーム内への水冷や油冷のような特殊な冷却機能が不要な搭載が可能な」システムになったとしています。冷やす装置を足さずに済ませることが、この守り方の目的でした。
寒さのほうは、むしろ得意な部類でした。低温では内部抵抗が上がりますが、論文は「低温時の内部抵抗の増加率は,3 倍(-30℃と20℃比較)以下であり,LiB やNi-MH と比較しても小さく,低温時の受入れ性の悪化を抑えることが可能である。」と書いています。これも、化学反応で貯める電池と、電極の表面に電気を貼り付けて貯めるコンデンサの性格の違いから来ています。同じ理由で、流す電流の大小による劣化への影響も小さく、「10~200Aの電流範囲で1.6%の変化率であり,非常に小さいことを明らかにした。」とあります。
効果は、走り方でまるで変わる
では燃費はどれくらい良くなるのか。論文は2つの場面を分けて示しています。ここは条件を落とすと数字が独り歩きするので、丁寧に見ます。
ひとつめは、加減速が十分に多く、電装品が使う電気を回生だけでまかなえる場面です。論文はアメリカのフリーウェイでの実走データ(車間が詰まりながら80km/hから120km/hの加減速を繰り返す約5分間)を挙げて、この場面では「常に減速エネルギのみで車両の電気負荷を補い,燃料による発電がないことがわかる。」と書き、効果をこう見積もっています。
実用走行では30~40A の消費電流が一般的にあり,シーンA のような充分な加減速頻度で,常に車両消費電流を回生エネルギで賄える場合の燃費10%程度が見込まれる。
ふたつめは、加減速が少なく、電装品の消費の半分ほどしか回生でまかなえない場面です。こちらは「5%程度の燃費向上が見込まれる」とされ、「走行中の発電は約半分が燃料による発電となる。」と添えられています。
この10%という数字は、消費電流が30〜40Aの場合の見込みです。同じシーンAのグラフから消費電流が少ない側を読むと、「例えば15A の平均消費電流の車種では,3~5%程度の改善率と推定される。」とされています。電気をたくさん使うクルマほど、電気を作る手間を減らす仕組みは効くという関係です。だから論文は、モード燃費よりも実走行のほうが効果が出ると書いています。
論文のまとめの節には、この先を見据えた一文も置かれています。
将来的には,電動ウオータポンプや電動コンプレッサの採用等の環境対応や衝突被害軽減装置等の安全装備のエレキシステムが増え,それらのシステムでの消費電流の増加による燃費悪化に対応できるシステムとして,システムの進化,デバイスの進化による対応が不可欠と考えている。
ヤシの実の殻から来ている
最後に、材料の話をひとつ。EDLCが電気を貯める電極には活性炭が使われます。その原料について、デバイス開発の論文は少し変わった説明を残しています。
フィリピンでは2010 年ヤシ油用に120 億個のヤシの実が使用されているが,その廃材の内果皮約30 億個(Fig.8)が活性炭用として使用されており,今後EDLC が増産されても廃材利用率が向上し環境破壊等が発生する懸念は少ない。
フィリピンでヤシ油を搾ったあとに残る内側の殻。それを焼いて作った活性炭が、減速のたびに200アンペアを受け止めています。論文の比較表でも、EDLCだけが環境負荷の欄に×が付いていません(リチウムイオンはLi・Co・Ni・Mn、ニッケル水素はNi、鉛はPbと、それぞれ材料名が書かれています)。
この記事が扱っていないこと
- 他社の回生システムとの比較はしていません。 参照したのはマツダ技報の3本だけで、他社が同種の仕組みをどう作っているかは調べていません。世界初といった表現も論文には出てきません
- 実車の燃費値は扱っていません。 本文の10%・5%・3〜5%はいずれも論文が場面ごとに示した見込みで、「実際の燃費改善率は,各車種の質量やエンジン効率,平均消費電流により変化する」と論文自身が断っています。カタログ燃費や実燃費の数字ではありません
- 現在の搭載状況は調べていません。 この記事が読んだのは2012年の技術論文で、i-ELOOPがいまどの車種に載っているかは扱っていません。購入を検討する場合は、必ずマツダの公式サイトと販売店で最新の仕様をご確認ください
- 制御の詳細までは追っていません。 高効率発電制御(燃料を使って発電する場面で、燃料増加が最小になるタイミングを選ぶ制御)など、記事で触れていない仕組みが同じ論文にあります
- 装置の価格や整備費用の情報はありません。 論文は「コストパフォーマンスに優れたシステムである」と書いていますが、金額の記載はありません
まとめ
この記事で見たのは、「貯める」という言葉が、条件によってまるで別の要求になるという話でした。
- i-ELOOPの目的は走りを助けることではなく、燃料を使った発電をなくすこと
- 減速の間隔は平均38.7秒(停車時間を含む)。仮の目標は40秒ぶんの供給で、代わりに200アンペアを6.6秒で受け取る性能が要った
- 必要な容量(120F・23kJ以上)は要求仕様として先にあり、種類を分けたのは受け入れの速さと、エンジンルームに置ける寿命。この2つで、鉛・ニッケル水素・リチウムイオンが外れた
- 残ったコンデンサはエネルギ密度だけが×で、出力・内部抵抗・サイクル寿命は○だった
- だから鉛バッテリを置き換えず、「回収」と「車両負荷」に機能を分けて並べた
- コンデンサが小さくて済んだのは容量が要らなかったからではなく、次の減速のぶんだけ空きを開けておく制御を作ったから。その副産物として鉛バッテリの充放電量は従来の半分以下になった
- それでも暑さには足りず、70℃を超えたら上限電圧を下げるという守り方をした
- 受け取る能力は従来比約3倍になったが、実際に受け取る量は「ドライバに違和感を与えない」範囲に制限される
スペック表を見て容量が小さいと読むと、この選択は理解できません。使える時間が数秒しかない場所では、大きな器より、口の大きな器が要る。マツダがポリタンクとバケツという比喩を論文に書いたのは、この順番を説明するためだったのだと思います。
同じマツダが圧縮比という別の数字で常識を裏返した話はマツダはなぜガソリンを圧縮着火させられたのか — 火花で作った火の玉を、第二のピストンにするで、減速のエネルギを走りに使う側の仕組みはハイブリッド車はなぜ燃費がいい?トヨタ式と日産式、しくみの違いまで読み解くで扱っています。
出典: マツダ株式会社「減速エネルギ回生システム“i-ELOOP”の開発」(マツダ技報 No.30・2012年・P37-42)、同「減速エネルギ回生システム“i-ELOOP”のデバイス開発」(同 P43-50)、同「“i-ELOOP”制御技術の開発」(同 P51-55)。いずれも2026年9月1日に閲覧。○×の評価は論文の比較表(Table 2)に付されているものです。日本語の引用はすべて論文の原文どおりで、数値の単位・桁の言い換え(100万回超など)は当サイトによる表記です。









